「氷がないならバニラでお割り!」【新井見枝香コラム】

| 日刊大衆

 冷凍庫から取り出したばかりの、かちんこちんのスーパーカップ。これがほどよく溶けるまでに、エッセイを一本書こうと思う。よーい、どん。

 まだ実家にいた頃、ケーブルテレビで放送していたアメリカのアニメ『パワーパフガールズ』が大好きだった。「バターカップ」という登場人物の名前が特に好きで、意味を調べた後でも、バターをふんだんに使ったカップケーキへの連想は止まらなかった。条件反射で涎が湧くような響きではないか。ピーナツバターカップ、焦がしバターカップ、レーズンバターカップ、じゃがバターカップ……あぁ。テレビがニュースに切り替わり「ジャパンカップ」などと聞けば、小豆や抹茶が使用された和風カップケーキを想像してしまうほどだ!

 すまん、最後は盛ってしまった、カップだけに。

 だが、基本的に「盛る」のは良いことだ。髪を盛る。まつげを盛る。おっぱいを盛る。自撮りをアプリで盛る。どれも盛ることで美しくなっている。本当は地方のキャバクラで、トップからゴソッと他店に引き抜かれたときに繰り上がっただけなのだが「アタシ昔は銀座のクラブでナンバーワンだったのヨ」という風に過去を盛ることもあるだろう。美談だ。

 こうして盛り続けていると、もはや元の話を思い出せなくなる。あの人はいつもウイスキーの水割り、アタシにはいっとう高いフルーツの盛り合わせを頼んでくれてね。アフターはザギンのシースーよ。まだ盛るのかい。

 なんだか無性に水割りが飲みたい気分だ。つまみは柿の種とピーナツの盛り合わせだ。

 幸い我が家にはブラックニッカがある。しかし、氷がない。外は春の嵐が吹き荒れ、しぶとく残った桜の花を一斉に回収しようとしていた。花粉症の私は、とても出掛ける気になれない。

 ストリップ小屋で舞う桜吹雪は、大抵の場合、踊り子が手で拾って持ち帰った。踊り子自身が袂に仕込んだそれを、手で撒き散らしたからだ。彼女たちは、自分でできることはなんでもやる。だからそんな踊り子を見習って、観客もせっせと拾う。次の踊り子のお尻に花びらが引っ付くと、どんなにセクシーに踊っても、ティッシュペーパーを貼り付けたおっちょこちょいみたいに見えてしまうのだ。

 なんの話をしていましたでしょうか。

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