森永卓郎の「経済“千夜一夜"物語」 ★ソフトバンクグループの抗体検査

| 週刊実話

 ソフトバンクグループが5月12日から6月9日にかけて、同グループや取引先の関係者など465社の社員3万8216人に対して、簡易検査キットによる抗体検査を実施した。その結果によると陽性者は86人で、感染率は0・23%となった。私はこれまで一貫して、大規模な感染状況調査の必要性を訴えてきたが、政府に先駆けてソフトバンクが実現したことになる。

 ソフトバンクの調査はサンプル数が多いので、信頼性が極めて高い。統計学的にみると、本当の感染率は95%の確率で、0・18%から0・27%の間に入ることになる。

 問題は、この感染率をどう評価するのかということだ。6月8日時点で全国の感染者数の累計は1万7223人となっており、人口で割ると感染率は0・14%となっている。

 抗体検査の感度が9割と仮定した場合、ソフトバンクの調査に基づく感染率は0・25%で、政府発表の1.8倍ということになる。

 これまで、本当の感染者がどれだけいるのかということに関しては、専門家でも意見が分かれていた。政府発表より若干多い程度という専門家と、政府発表の10倍以上いるという専門家が対立してきたのだ。今回のソフトバンクの調査では、2倍程度の数値であり、ほぼ常識的な結果となった。

 この結果を踏まえると、以下の3つのことが、分かる。第1は、一部で主張されていた集団免疫は、とても達成できないということだ。人口の5割から7割が感染すれば、感染者が一種の防御壁となって感染拡大を止められる。しかし、0.3%にも満たない現状の感染率を前提にすれば、そこまでに達することは、とても考えられない。

 第2は、PCR検査の抑制方針が間違っていたということだ。日本は海外と異なり、PCR検査の数を極端に絞り込んできた。検査を拡大すると、医療機関に患者が殺到して医療崩壊に至るというのが、検査を絞り込む最大の理由だった。

 しかし、今回の調査によれば、どんなに積極的に検査を進めても、患者の数は1.8倍にしかならなかったのだから、医療崩壊のリスクは小さい。

 そう言うと、「実際に崩壊寸前まで医療のひっ迫が進んだではないか」と批判されるかもしれない。しかし、それは過剰医療の結果である。

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