「未熟者だった私をお許しください」
海外在住の読者・Kさん(仮名、30代女性)から、編集部に1通のメールが届いた。
彼女には、忘れられない人が居る。10年ほど前に出会った、タクシー運転手の男性だ。
それは、春の彼岸の頃だった。祖母の命日が近かったこともあり、Kさんはふと思い立って一人で墓参りに行くことにした。
墓があるのは埼玉県の霊園。都内に住んでいた彼女は電車に乗って、大宮駅に向かった。
しかし、これまで一人で墓参りに行ったことのなかった彼女は、霊園の場所も、お墓の位置も、正確には覚えていなくて......。
「この辺、霊園はいくつもあるからねえ」10年ほど前、季節は春のお彼岸の頃です。当時都内で実家暮らしをしていた私はまだ駆け出しの美容師アシスタントで、仕事がうまく行かず、毎日を悶々と過ごしていました。
また、大好きだった父方の祖母の命日も3月なのですが、そのころは多忙でお墓参りに行けていないことも、心に引っかかっていました。
ある休日の朝。急に思い立って「良し!今から行こう!」と母にも告げず出かけることに。大宮駅に降り立ち、祖母の好きだったユリの花束を購入しました。
タクシーに乗り込むと、運転手さんはメガネをかけた50代くらいの中肉中背なおじさんでした。私が霊園まで行きたいと伝えると、
「どこの霊園? この辺、霊園はいくつもあるからねえ」
と、運転手さん。当時はガラケーだったこともあり、すぐに調べることもできず母に電話して聞きました。