「できなかったことを叱るよりも、いいところをほめて育てる」という方針は、教育分野ではすっかり主流になった。
その影響で「叱る」のは、以前と比べるとずっと勇気のいる行為になり、反対に「ほめる」ことはずっと気楽なったわけだが、当の「ほめられる側」は、そのことをどう考えているのだろうか。
もちろん、どんな人にも承認欲求はあり、子どもでも大人でもほめられること自体はうれしい。しかし、「無条件に」というわけではない。『先生、どうか皆の前でほめないで下さい―いい子症候群の若者たち』(金間大介著、東洋経済新報社刊)からは、大学教育の現場で起きている学生たちの意識の変化が垣間見える。
■なぜ学生たちは「匿名」を好むのか著者であり、東京大学未来ビジョン研究センター客員教授の金間大介氏が教育の現場で日々接している学生たちのメンタリティを理解するために、「匿名性」という言葉が役に立つ。
学生たちは、授業の時間に教室にやってきて板書やスライドはノートにきちんと写すし、大事なところには下線を引く。一見すると真面目で意欲的だ。しかし、わからないことがあっても質問はせず、講師がまちがったことを言っても指摘しない。当然、議論にも発展しないため、授業の活気には欠ける。
では、学生たちは本当に質問や意見がないのかというと、そんなことはない。ある「条件」をつけると講師のところには質問が続々と寄せられるという。それが「匿名」である。
金間氏によると、スマホアプリを利用して講義中に投げかけた質問に匿名で答えられるようにすると、質問やコメントが続々と届く。口頭で質問しても無反応だったのに、質問や意見の主体として自分の存在が周りに認識されない環境を作ると、学生たちはリアクションをするのである。
■ほめられても喜ばない学生たち学生たちのこうした行動特性とメンタリティの背後にあるものは「周囲の中で目立つこと」への恐怖だと本書は指摘する。
ここで冒頭の「ほめる」の話に戻ろう。ほめられること自体は、おそらくほとんどの学生は悪い気はしない。