元レーシングドライバー・土屋圭市の【人間力】インタビュー「恐怖心を乗り越えられるのは、“技術”しかない」

| 日刊大衆
土屋圭市(撮影・弦巻勝)

 プロのレーサーになってから、僕は常に必死でした。日産と契約していたときも、ホンダと契約していたときも、いつも考えていたのは「チームのトップじゃなきゃいけない」ということ。立場的にプロレーサーは1年契約の、いわば派遣社員。だから、ドベ(最下位)になったら、もう来年は契約してもらえない。常に後がないんです。そう思うと、もう不安しかないわけですよ。だから、睡眠薬を飲まないと眠れない日々を送っていました。

 レースでは300キロというスピードを出していますが、プロでもやっぱり恐怖心はあります。あの“日本一速い男”といわれた星野一義だって、レース前は眠れなくて睡眠薬を飲んでいたというくらいですから。

 そこでレーサーが恐怖心を乗り越えられるのは、“技術”しかないんですね。怖いと、人は誰でもブレーキをかけます。ただ、そのタイミングが50センチ前なのか、1メートル前なのか。そして、その差がレースで1位と2位の分かれ目になってくる。

 自分の技術に自信があれば、50センチ前まで耐えられる。技術がなければ、早くブレーキを踏むしかないし、事故にもつながる。恐怖心を乗り越えるための技術が高いのか、低いのか――それが、この世界で生き抜くカギになるんです。

 ただ、「レースの魅力は何か」と聞かれたら、「“死ぬかもしれない”という緊張感」だと答えます。前後左右にライバルがいる中でレースをしていると、アドレナリンの出方が全然違う。それがレースの持つ最大の魅力だと思うんです。

 引退して第一線を離れてからは、自動車の映画でも仕事をさせてもらっています。今回、監修という形で参加した『ALIVEHOON アライブフーン』という作品では“本物”にこだわりました。撮影用じゃない本物の車を使って、リアルに走らせてドリフトさせて、車好きの連中をうならせる映画にしたかった。だから、CGは一切使ってないし、一流のドライバーに運転してもらっています。実写だからこその迫力を出したかったんです。

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