漫画や映画において、死は悲劇的に描かれることが大半である。曖昧な描写のまま読者に涙を流させる〝装置〟として、死は散々使い古されてきた。その点、週刊ビッグコミックスピリッツで連載がスタートし、今年4月に最終回を迎えた『チ。ー地球の運動についてー』(魚豊)は、死を単なる悲劇に留めていない点で異色である。
■漫画「チ。ー地球の運動についてー」について
本作品は15世紀のヨーロッパを舞台に、地動説を命がけで研究した人々を描いたものである。地動説の研究によりキリスト教(作中ではC教)の逆鱗に触れたため、キャラクターが次々と死んでいくわけだが、英雄的に死ぬわけではない。また死を称揚しているわけでもない。ネガティブなものとして死が描かれる点は同様である。だが死にゆくキャラクター達には共通点がある。こと切れる瞬間、皆一様にうっすらと笑みを浮かべるのである。
■歌舞伎演目の「俊寛」
歌舞伎の有名な演目に『俊寛』があるが、2007年には新解釈で上演されている。宇野重規による『希望学1』から引用すると、「陰謀に加担した罪で鬼界ヶ島に流された俊寛は、赦免の知らせに喜脱するが、ともに流人の身である少将と恋仲になった島の海女千鳥の乗船が拒否され悲嘆にくれる二人を前にして、千鳥を自分の代わりに船に乗せるように計らう。舞台最後の場面は、絶海の孤島に一人残された俊寛が、岩頭に立って点となって遠ざかる船を目で追う。『放心、募る寂寥感、ところが、表情には笑いが兆す。』
■「チ。ー地球の運動についてー」が描いた死
『チ。 –地球の運動について–』においてのキャラクター達の〝笑い〟、はたまた孤島に残され、行く末には死が待ち受けているであろう俊寛の〝笑い〟。これは後世に「希望を託した」ことによる〝笑い〟ではないか、と私は考えている。
キャラクターの一人である少年は悩む。C教に強制されるまま、神学の道に進めば命は永らえる。生来優秀であることも相まって、大学で出世すればそれなりに豊かな暮らしも保証されているだろう。だが観察研究によって天動説の誤りは明白となった。地動説はおそらく正しい。そして太陽を中心とした天体の運動、牢獄の小窓から見える星空は、なによりも〝美しい〟――。
漫画「チ。ー地球の運動についてー」と歌舞伎演目の「俊寛」が描く死
2022.07.21 19:00
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