映画「正欲」原作となったベストセラー小説が投げかける「多様性」の光と影

| 新刊JP
『正欲』(新潮社刊)

11月10日に公開された映画「正欲」が早くも反響を呼んでいる。同名の原作小説と同様、この作品で扱われているのは、現代社会が向き合わざるを得ない「多様性」の光と影である。

人の価値観や考え方、生き方、働き方、性的嗜好、人種、性別、民族…。すべてが尊重されるべき、というのは確かにあるべき社会像だろう。ただ、意地悪な言い方をするなら、人が他者に寛容になれるのは、その他者が自分にとって理解可能であり、さらにその存在が自分の利益を脅かさない時だけかもしれない。もし、ある層の人々が主張する権利が自分の利益を脅かした時、私たちは「多様性」という理想のもとに、彼らを許容できるほど寛容でいられるのだろうか?

■朝井リョウ『正欲』が炙り出す「多様性」の脆弱さ

『正欲』(朝井リョウ著、新潮社刊)は、多様性の本質と、その実現までの道のりの困難さを読む者に突きつけてくる。

誰かのやりたいことや考え方、生き方が自分の利益を脅かすシチュエーションは、案外身近にある。たとえば、「他所の家の子」では許せるのに「我が子」では許せないことは、どんな親にでもあるのではないだろうか?

『正欲』の登場人物の一人、寺井啓喜は息子の泰希の不登校に悩む検察官だ。家でふさぎこむ泰希に変化が見られたのは、啓喜の妻で母親の由美のスマホで「これからの時代、学校はもう必要ない」と説いて注目を集めている小学生インフルエンサーの動画に傾倒しはじめてからだった。

「この子みたいに、学校に行かずに、自分の力でやりたいことをやってみたい」

彼に影響されてこう言いだす我が子を、由美は後押しする姿勢を見せるが、啓喜は素直に肯定することができない。大人として、そして検察官として、学校という「レール」から外れてしまった人々がかならずしも幸福に生きていないことを知っていたからだ。

しかし啓喜の意見は、前向きな気持ちを取り戻した息子に安堵し背中を押す妻や、「学校に行かない生き方もある」という、多様性を前面に出す価値観に押し戻されてしまう。

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