以前、温泉旅行に出かけた時のこと。宿泊先での部屋着として身に纏ったのは、備え付けの浴衣であった。普段浴衣然り、和装などする習慣のない私は少々浴衣を着るのに戸惑った。何にそんなに戸惑ったのかというと、それは「左前」か「右前」かという浴衣の合わせ方であった。
■どうして左前が死装束?
うっすらと覚えがあったような「左前が死装束としての着方」という曖昧な記憶のおかげで、右前でいいのか、はたまた間違っているのかと猜疑心にオロオロとした後に、確信が持てずに一緒に来ていた友人に尋ねる羽目になってしまったのであった。
皆さんも上で述べたような筆者に似た経験はないだろうか。今やお祭りや式典、そして筆者のように旅先での室内着としてなど、一種のイベント着のようになってしまい、めっきり洋装文化に慣れてしまっている私たち日本人には、和装は縁遠い物になりつつあるようである。それ故、このような浴衣の着方一つで悩まなければならないのである。(単純に私に常識が欠けていただけではあるが)そもそも何故「左前に合わせるのが死装束」なのか、素朴な疑問に触れていこうと思う。
■右手が懐に入りやすいから!
何故「左前」なのか。それにはいくつか諸説がある。
奈良時代の「衣服令」の名残という説。これは右前に着ることを義務付けられ、亡くなると左前に着せるようにという当時の正式な律令からくるものである。
またはお釈迦様が入滅する時に、着物を左前に合わせていたという説。更に右前が常態なので「この世」、左前はその反対で「あの世」を表しているという説もある。史実や絵画に基づくものや、宗教的な考えに結びつくものまで、「左前に合わせるのが死装束」という概念は実に様々な理由から現在の一常識へと成り立っていったわけである。
いくつかのそれらしい説を上に述べたが、筆者が最も納得のいった理由は「右手が懐に入りやすい」説であった。どういう訳かと言うと、日本人の多くは右利きであり、まだ和装が全盛であった時代の人々は右の懐に財布やちり紙などを入れていたそうな。それらが取り出し易いのが、いわゆる常態である「右前」だという。なるほど、確かに筆者も右利きであるし、右の懐からスラスラと財布を取り出す自分の姿を容易に想像できる。
浴衣の合わせ方は右前?左前?じゃあ死装束はどっち?
2015.06.05 19:00
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