「俺一人で日本のノワール小説を背負ってるんだ、くらいの覚悟で書いていた」――馳星周インタビュー(3) (3/3ページ)
『不夜城』は、それ以前のハードボイルド小説へのアンチテーゼとして書きたいと思っていましたし、当時アメリカで出てきたノワールを日本でもやりたいという思いもありました。文章からなにから、それまでに読んできたものの中から抽出したものだといえると思います。
今読み返すと下手だなと思うんですけど、熱気はありますね。あの熱気は当時じゃないと書けなかったものですから。
――来年はデビュー20周年です。デビュー当時と今とで変わったことはありますか?
馳:書くものに対する考え方は変わったと思います。まだ若かったですし、他にノワールを書く作家がいなかったこともあって、俺一人で日本のノワール小説を背負ってるんだ、くらいの覚悟で書いていましたからね。
今はその時に書きたいものを書きたいようにかけばいいんじゃないかと思っています。若い頃のように気負わなくても、俺が書けば自然とどこかノワール的な小説になる、そういう作家なんだと思えるようになりました。
――馳さんが人生に影響を受けた本がありましたら、3冊ほどご紹介いただければと思います。
馳:平井和正さんの「ウルフガイ・シリーズ」の中の『狼の紋章』が一冊目。もう一冊はジェイムズ・エルロイの『ホワイト・ジャズ』です。最後はダシール・ハメットの『血の収穫』ですね。
ハメットもエルロイも平井さんも世の中の非情さだとか不条理さを徹底して書いているところが共通していて、そこに惹かれたんだと思います。
「努力すれば夢は叶う」というような言説が昔から本当に嫌いで、20代とか30代の頃は「よくそんな嘘が言えるな」と思っていました。この歳になると、そうでも言わないと救われない人がいるっていうことがわかるけど、やはり努力したところで叶わない夢の方が多いわけで、そちらの方が僕にとっての現実でした。ハメットはそれを淡々と書いたけど、エルロイとか平井さんは登場人物の情念をぶつけて書いた。どちらも不条理さや非情さを知ったうえで、それでも足掻く人たちを書いていて、自分もこういうものを書きたいなと思っていましたね。
――最後になりますが、読者の方々にメッセージをお願いいたします。
馳:今までの僕の作風とは少し違いますが、必ず腹を抱えて笑えるのでぜひ読んでみてください。
■取材後記
都内某ホテルでの取材でしたが、待ち合わせ場所にいらっしゃった時からその独特の佇まいと雰囲気に圧倒され通し。しかし取材が始まってしまうと作品の成り立ちから、作家業のウラ話、そして作家になったいきさつまで、とても気さくに話してくださいました。
『アンタッチャブル』はこれまでの馳作品とは一線を画す、新たな魅力に溢れています。そのコミカルさとユーモアはこれまでの読者も新しい読者も同時に満足させてくれるはずです。
(インタビュー・記事/山田洋介)