デキるオトナは知っておきたい「Uber騒動」の拡大、そして政治との複雑な関係
配車サービス『Uber』が、世界中でその存在を議論されている。
『Uber』はスマートフォンを使用した利便性の高いサービスで、たちまちのうちにシェアを伸ばした。
だが、『Uber』の車両自体は、タクシーでもハイヤーでもない。なぜなら『Uber』に登録しているドライバーは、その多くが陸運営業ライセンスを所持していないからだ。いわゆる『ライドシェア』というものだが、世界のタクシー会社はこれを“白タク行為”とよんでいる。
『Uber』が利益を上げれば上げるほど、現地のタクシー会社は地元当局とともに『Uber』へ圧力をかけている。それは遂に、世界最大の国家の大統領選挙にまで波及しそうな勢いだ。8月8日付の産経ニュースの記事に、『Uber』とアメリカ大統領選を結びつける内容のものがあった。それによると、構図としては、『Uber』に“好意的な共和党”と“それを牽制する民主党”ということらしい。
今や『Uber』は、世界のどの政治家も無関心ではいられない企業となった。
■ タクシードライバーの実力行使
今月に入り、ブラジルでの『Uber』騒動のニュースが目立つようになった。
現地日系人向けメディアのサンパウロ新聞は、8月13日付の記事で『Uber』絡みの事件を伝えている。『Uber』の利用客が、地元のタクシードライバーのグループに暴行を受けたというのだ。彼らが逃げないようにタクシーで道路を封鎖したと言うのだから、驚きを通り越して呆れてしまう。
これには、来年のオリンピックの存在も絡んでいるようだ。近代オリンピックは、敢えて悪い表現で言い換えれば“天から降ってくる千両箱”である。開催期間中は、その都市に未曾有の特需をもたらしてくれる。だが不埒にも、「『Uber』はその“ウワマエをハネる”つもりでブラジルに進出してきやがった……」と、現地のタクシードライバーの目にはそう映るのだ。
そうした陸運組合の声に便乗するかのように、現地の国会議員たちは“配車サービスの規制”に取りかかろうとしている。ブラジルも他の新興国と同様、陸運組合は政治に対しての発言力というものを持っている。その理由は、また後述する。
それと同じようなことは、ブラジルと大西洋を隔てた南アフリカでも起こっている。『Uber』の車を待っていた利用客が、現地のドライバーに脅迫され彼らのタクシーに無理やり乗せられたという事件だ。「『Uber』はけしからん」という感情が、いつの間にか「『Uber』の利用客はけしからん」に変化している。もちろん、一般市民にとっては、これらのタクシードライバーによる実力行使は甚だ迷惑でしかない。消費者には“選ぶ権利”というものがある。それを業者が侵害することは、あってはならない。
ところでブラジルと南アフリカ、この2国には共通項がある。それは、国内の治安維持に大きな不安を抱えているということだ。
■ ギャングとタクシー
あまり治安の良くない国、まるで昔のニューヨークのような地域ではタクシーは便利な“避難先”である。特に女性は、絶対にひとりで出歩かない。いくらかのポケットマネーを消費してでもタクシーを呼ぶ。
地元のギャング組織もそれを分かっているから、タクシー会社にこういう話を持ちかける。「いくばくかの上納金を払ってくれれば、おたくの会社のタクシーを見張ってやる。路上の安全は俺たちに任せろ」。すべての新興国のタクシー業界がそうとは言わないが、それでもこの業界がギャングにつけ込まれやすいことに違いはない。
そしてこの部分だけは断言できるが、新興国の政治は先進国のそれと比べるとクリーンではない。もっとも、先進国の政治家も100%潔白であるとは言い切れないが、近年経済成長を遂げたばかりの国の政界は、まさに“人食いジャングル”である。企業、組合、政治家が結託して既得権益を死守するのは当然のように行われる。陸運組合の“政治的影響力”というのは、すなわちこういう意味だ。
だが、それは絶対悪とはいえない。そういう癒着があったからこそ、社会の最下層に属する市民への、安定した雇用を提供することができた。純粋潔白な政治家がいないのと同じように、誰もが憎む完全極悪の組織というのも存在しない。
■ Uberショックは日本にも?

PROJoi Ito / Tokyo taxi on Roppongi Dori – Flickr
ここまで世界のタクシー業界の大まかな素性を書いてきたが、そうした構図には当てはまらない国もある。そう、我が国日本だ。
日本のタクシーは、異様なほどサービスがいい。ドライバーはいつも車内の衛生に気を遣い、言葉遣いも丁寧で不正をしない。日本という国自体の治安がいいから、先述のような流れでギャングと関係を持っているということはまずあり得ない。
そういうこともあり、日本では利用客がわざわざ『ライドシェア』という移動手段を選ぶのかという指摘がある。『Uber』の配車サービスアプリは日本でも大いに利用されているが、『Uber』ジャパンの車両は、いずれも“緑ナンバー”で営業を許可された車両だ。現地の既存企業と業務提携をする道を、最初から選んでいる。
もっとも、『ライドシェア』の試験運行はすでに行っている。今年の2月、福岡県福岡市で『Uber』の契約車両(“白ナンバー”車)による営業が開始された。ただし、営業といっても利用客から料金は取らず、契約ドライバーには利用客乗車時の走行時間と照らし合わせて相応の対価が渡されたに過ぎなかった。あくまでも“実験”というスタンスだったのだ。
それでも国土交通省は黙っていなかった。3月に行政指導が下され、『ライドシェア』は中止に追い込まれた。
そしてこれが肝心なのだが、そこから今に至るまで、『ライドシェア』の試験再開を望む市民の声が、あまり大きくなっていない。「日本のタクシーは料金が高い」と言われているが、では中学生の女の子が2,000円かけてタクシーに乗るか、あるいは800円で“白ナンバー”の一般車両に乗るか思案している場合、彼女の保護者はどちらを選ばせるのかという問題を提起することもできる。
日本はやはり、特殊な国である。しかし、だからこそ、世界中を揺るがす『Uber騒動』の落とし所を提示できるかもしれないという可能性を持っているのだ。
【参考・画像】
※ 「ウーバー論争」 大統領でも争点に – 産経ニュース
※ 「UBER」配車で暴行事件 タクシー側が運転手・利用者に – サンパウロ新聞
※ PROJoi Ito / Tokyo taxi on Roppongi Dori – Flickr
※ soramushi – PIXTA(ピクスタ)