戦前の日本戦艦を見学できるタイ海軍「プラジュンジョムクラオ要塞」に潜入

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メークロン号は河に浮いているわけではなく、地面に設置されている(撮影/髙田胤臣)
メークロン号は河に浮いているわけではなく、地面に設置されている(撮影/髙田胤臣)

 バンコクを通り抜ける大河、チャオプラヤ河の河口にタイ海軍の公園がある。この公園は1883年ごろに建設された要塞跡地で、その時代の国王だったラマ5世王の名を冠して「プラジュンジョムクラオ要塞」とタイ人は呼ぶ。この要塞には日本製の戦艦が展示され、タイと日本の関わりを垣間見ることができる。

 ラマ5世は今でもタイ人から人気があり、ここに祀られているラマ5世像が参拝スポットとなっている。

タイ人が愛するラマ5世像

「プミポンドゥンヤデート国王陛下(現国王)とプラジュンジョムクラオ国王はタイ人の誇りです。ここには年数回は訪れますよ」

 ラマ5世像に参拝するバンコク在住のタイ人男性は家族を伴って誇らしく語っていた。タイ人の国王に対する想いは日本人の天皇へのそれとはまったく違い、常に感謝と敬いの気持ちを持って日常生活を送っている。

 ちなみに、ラマ5世はチュラロンコーン王とも呼ばれ、ミュージカル「王様と私」の原作で1944年に発表された小説「私とシャム王」の中で英国人アンナが教育したのがこの人だとされる。この小説は誇張などが多く、また、タイでは王室に関する不敬罪などがあるため、タイ国内では小説も映画も発禁となっている。

最新式のアームストロング砲も見学可能

 建設当初のプラジュンジョムクラオ要塞にはイギリスやフランスからの侵略を阻止する目的があった。事実この要塞とチャオプラヤ河へ侵入しようとしたフランス艦隊が交戦した。この事件によりタイは危うい立場になったが、結果的にタイが植民地化されることを防ぐことができた。そのときに使用された当時の最新式のアームストロング砲も見学することができる。

要塞内に展示されている英国製アームストロング砲

 公園の水際には「メークロン号」が展示されている。スループと呼ばれるタイプの戦艦で、1937年に沿岸警備用にタイが日本の浦賀造船所に発注したものだ。この船は第2次世界大戦を経て、練習艦として1996年まで現役だった。戦前の日本の戦艦がタイでついこの間まで活躍していたと思うと非常に感慨深い。

メークロン号の前部

メークロン号の後部

メークロン号の甲板から見たチャオプラヤの河口

 メークロン号の中には自由に入ることができる。120ミリ砲や20ミリの機関銃などに直接触ることも可能だ。展示用に修正された箇所は少なく、落ちたら骨折必至なほど急な階段や、頭をぶつけたら出血確実な低い天井などを抜けながら、触りたい放題、いじりたい放題である。

機関銃も実射はできないようになっているが、砲座が回転するなど遊び放題だった

120mmの大砲の後部。兵器に触れ、訪問していた子どもたちも大喜びだった

 船橋にも入れ、操舵室なども見学できる。残念なのは就航当時の状態ではなく、退役時の状態なので、操舵室には電子機器など後付けで設置されているものも多く、時代を感じにくい部分がある。

急な階段を登って操舵室を見学

 それでも十分に楽しめる。マニアだけでなく、子どもにも大ウケ間違いなしだ。子どもを機関銃で遊ばせていたタイ人の父親に、この船は日本製であることを知っているか訊いてみた。

「そうなの? 説明の看板に書いてあったような気がするけど」

 と、あまり興味はない。彼らはここへはラマ5世の銅像への参拝と、メークロン号の隣にあるレストランへ食事に来ただけだと言った。

 そのレストランは海軍士官が経営するシーフード料理店で、人気があってバンコクの都心並みに来客が多い。河口にあるので川幅も広く、晴れている日は見晴らしもいい。

シーフードレストランではエビの炭火焼きなどが楽しめる。写真は「イカのカレー炒め」

 日本人にはメークロン号の存在がこの公園をより歴史的なものに感じさせるのだが、タイ人にとってはひとつの日帰り散策スポットなだけのようであった。

(取材・文/髙田胤臣)

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