吉田豪インタビュー企画:長州力「橋本は蝶野や武藤以上に一歩も二歩も先にいってた」(2) (3/3ページ)
橋本真也との確執と本音
──今日はこんな感じで、本に出てないエピソードをいくつか聞けたらと思ってたんですけど。
長州 でも、そういうのもないですよ。自分からエピソードを出そうとか考えようとも思わない。
──たとえば橋本真也さんとの関係とか、もうちょっと掘り下げてみたいと思ってて。
長州 チンタですか?
──チンタです(笑)。橋本さんのチンタっていうあだ名の由来が、この本だと「チンタラしてるから」って書かれてましたけど。
長州 あれは、たぶん自分の聞き間違いだと思った。
──……っていう説をボクも聞いたことがあるんですけど。
長州 みんな「シンヤシンヤ」って言ってるのを、僕はこいつの名前は橋本チンタかと思って。
──そんなわけないですよ(笑)。
長州 いやいや、みんなが「チンタチンタ」って呼んでるように聞こえて、僕が「チンタ」って呼んでも、あいつ自身も「シンヤ」って呼んでるのか「チンタ」って呼んでるのかわかんないから返事して、それからもう「チンタチンタ」って。まあ、おもしろいニックネームがついたよ(あっさりと)。
──橋本さんも変わった人だったじゃないですか、良くも悪くも。
長州 変わってるっていうか……まあ、特に個性を持った男で。もうちょっとちゃんと取り組んでいってれば、ああいうこと(05年、40歳のとき脳幹出血で死去)も起きなかったし、もうちょっと達成したんじゃないかなと思いますよね。あの世代のなかでは彼の個性のインパクトは一番強かったですから。でもおもしろいもんで、すべてがうまくいかないんですよ。なんでこの業界入ってきたのかわかんないぐらいもったいないことをしたなと思うんですよね。(武藤)敬司にしろ蝶野(正洋)にしろチンタにしろ、3人とも個性があるんだけど、インパクトはチンタが一番出せましたからね。
──長州さんとは仲良くないように見えて、不思議な信頼があった感じがしたんですよ。
長州 あいつ、そういうのがうまいところで、ふたりで話すと意外と素直なんですよ。素直どころか飼い猫みたいで(笑)。
──飼い猫!
長州 妙におとなしいヤツだなと思うぐらいにね。ホントにもったいないことをしたなと思って。
──橋本さんって新人の頃、試合前にみんなでランニングとかしながら長州さんの入場テーマの替え歌を歌ってた話とか有名じゃないですか。
長州 え! それは聞いたことないですね。
──知らないんですか? 『パワーホール』に乗せて、「♪長州力~腕が短い 長州力~脚が短い 長州力~全部短い」とか、いろんな先輩の入場テーマの替え歌を熱唱しまくってたって聞いて、「そういうことばかり歌ってるから仲が悪くなるんですよ!」って突っ込んでたんですけど(笑)。
長州 ハハハハハ! そんなことないですよ(笑)。そういう部分は全然問題ないんですよね。
──長州さん率いるジャパンプロレス勢が新日本に出戻りしたとき、ちょっとしたトラブルもあったじゃないですか。橋本さんがキックでヒロ斉藤さんの指を折って、控室で長州さんたちに制裁されたりの。
長州 ああ! あったね。でも、あれはお仕置きみたいなもんで、チンタじゃなくても誰でも同じような状況にはなったと思いますよ。「何バカやってんだ!」っていう、そういうのは。あいつも感情が激しいとこあるし。レスラーらしいレスラーで、キャラも十分あって。そして訴えるインパクトは持ってますからね。それは蝶野や敬司以上に、一歩も二歩も先にいってた。僕から見たらですけどね。
プロフィール
プロレスラー
長州力
長州力(ちょうしゅうりき):1951年、山口県出身。ミュンヘン五輪出場の実績をひっさげて、1974年に新日本プロレスでデビュー。“革命戦士”の異名で大人気を獲得する。以後、新日本だけでなく、全日本プロレス、WJプロレス、リアルジャパンプロレス、ドラディジョンなど様々なマットで活躍。2010年からは、藤波辰爾、初代タイガーマスクと「レジェンド・ザ・プロレスリング」をスタートさせている。
プロフィール
プロインタビュアー
吉田豪
吉田豪(よしだごう):1970年、東京都出身。プロ書評家、プロインタビュアー、ライター。徹底した事前調査をもとにしたインタビューに定評があり、『男気万字固め』、『人間コク宝』シリーズ、『サブカル・スーパースター鬱伝』『吉田豪の喋る!!道場破り プロレスラーガチンコインタビュー集』などインタビュー集を多数手がけている。また、近著で初の実用(?)新書『聞き出す力』も大きな話題を呼んでいる。
(取材・文/吉田豪)