日歯連で再び逮捕者…圧力団体の“巣窟”となった「参院比例区」改革の必要性 (2/2ページ)

デイリーニュースオンライン

 この捜査過程で、2004年に発覚したのが旧橋本派へのいわゆる「一億円ヤミ献金事件」だ。これは日歯連の組織内議員だった参議院議員を再選させるためには旧橋本派の肩入れが必要であると浅知恵を働かせた「日歯連」の幹部らが、赤坂の料亭で会長の橋本龍太郎元総理に1億円の小切手を渡したというものだ。だが、橋本派が領収書を交付せず、政治資金収支報告書にも記載しなかったことから「ヤミ献金事件」に発展した。不可解なのは小切手の授受現場に居合わせた橋本や野中広務元幹事長、青木幹雄参議院幹事長の3名は起訴されず、その場にいなかった村岡兼造元官房長官だけが政治資金規正法の不記載罪容疑で在宅起訴されていることだ。2008年7月、村岡に禁錮10月・執行猶予3年の有罪判決が確定しているが、理由は村岡だけが落選中だったからだと思われる。

 こうした政界の大物が絡む事件では法務・検察内部で熾烈な綱引きが行われる。誰を起訴し、誰を見逃すかを巡って政治家を敵に回して検事総長への昇進を妨害されたくない「赤レンガ組」(法務省側)と、あくまでも正論にこだわる特捜検事との“落とし所”を模索する。松島みどりや小渕優子が「嫌疑不十分」として不起訴処分になったのも、その結果だ。いずれにせよ「日歯連」というのは、過去にもこれだけの事件を引き起こしているのだから、つくづく「懲りない面々」という他はない。

国民生活より診療報酬の引き上げを優先する圧力団体

 憲法43条は「両議員は全国民を代表する選挙された議員でこれを組織とする」とし、国会議員は全国民の代表であり、特定の団体の利益の代弁者ではないとする。だが、そんな理屈は参議院の比例区選出議員には通用しない。実際、自民党の場合は「全国特定郵便局長会」や「全国土地改良政治連盟(土改連)」「日本医師連盟」「全国農業者農政運動組織連盟(農政連)」「日本看護連盟」などの業界団体が、民主党の場合は「労働組合」が競うように組織内候補を擁立し、露骨な組織ぐるみ選挙で参議院議員として国会に送り込み、自らの要求を政府・与党に呑ませようと狂奔する。

 その典型が全国の歯医者ら約6万5100名で作る「日本歯科医師会」が1950年に政治団体として立ち上げた「日歯連」だ。会員は約5万名。その最大の目的は医師に比べ冷遇され、2年に1回改定される「歯科診療報酬」を議員を使って厚生労働省に働きかけ、できるだけ釣り上げることにある。国民の生活などいっさい顧みない。2013年の選挙では歯医者あがりで、厚生労働省に陳情する際の「道案内」くらいしか使えない政治的センスなど皆無である石井みどりを再選させるために4億円もの巨費を使ったというのだから、驚くべき「金権選挙」にして、カネの無駄遣いというものだろう。

 筆者は先に単に神輿に乗っているだけで、何もせずに当選してしまう「全国農政連」の組織内候補の山田俊男議員が「脱法パーティー」で5億4000万円余もの巨費を荒稼ぎした黒い錬金術について書いたが、業界団体の露骨な利益の追求の舞台となり、「政治とカネ」を巡る犯罪の温床となっている参議院の比例区は早急に改革されるべきであろう。

朝倉秀雄(あさくらひでお)
ノンフィクション作家。元国会議員秘書。中央大学法学部卒業後、中央大学白門会司法会計研究所室員を経て国会議員政策秘書。衆参8名の国会議員を補佐し、資金管理団体の会計責任者として政治献金の管理にも携わる。現職を退いた現在も永田町との太いパイプを活かして、取材・執筆活動を行っている。著書に『国会議員とカネ』(宝島社)、『国会議員裏物語』『戦後総理の査定ファイル』『日本はアメリカとどう関わってきたか?』(以上、彩図社)など。最新刊『平成闇の権力 政財界事件簿』(イースト・プレス)が好評発売中
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