TPP大筋合意を中国人が分析「日本の食とオタク文化が危ない」

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TPP施行で懸念も…(C)孫向文/大洋図書
TPP施行で懸念も…(C)孫向文/大洋図書

 こんにちは。中国人漫画家の孫向文です。2015年10月5日、日本政府はTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)に関する交渉を行い、参加の方向で大筋合意に達しました。実現すれば世界のGDP(国内総生産)の約4割を占める巨大な経済圏が誕生することになります。

 TPPは、先日中国主導で開設されたAIIB(アジアインフラ投資銀行)の経済規模を上回るものであり、参加国の経済活動が一気に活発化する可能性があります。加えてAIIBは中国国内の経済状況が悪化しているため、実現化しない可能性が高く、事実、韓国などはTPPへの参加希望を表明しています。

TPPで中国経済は大ダメージを受ける可能性

 中国政府の機関紙「人民日報」は、「TPPは中国経済に対して強い影響は与えない」と発表しましたが、今後TPP参加国による経済のブロック化や産業の寡占化が進めば、輸出産業を基盤とする中国経済は大ダメージを受ける可能性があります。そのため中国国内のネット民の中には、「アメリカによる中国経済を崩壊させるための策略だ!」という意見を唱える人もいます。また、中国政府は「AIIBを実現化し、中国の内需を活性化させよう」とも主張していますが、すでに中国製品の評判は国内でも地に落ちており、さらに爆買いなどで多くの中国国民が外国製品の魅力を知ってしまったため、今後中国の内需が拡大する可能性は極めて低いでしょう。

 僕としては経済が失速することにより民衆の間で不満が爆発し、現共産党政府が打倒され中国が民主化への道を歩み出すといった荒療治もアリではないかと考えているのですが、もちろん、そんな考えを持つ国民はごく少数派です。

 ネット上の中国人の声を更に拾い上げていきましょう。

「中国の親米売国奴の連中は、米国がTPPで中国を孤立化させることが、そんなに楽しいのか?」

 進捗的な中国人は、欧米の普遍的な価値観を支持するため、TPPを称賛しています。TPPに加入するためには、人権問題や、著作権問題などをクリアしなければならないためです。この書き込みは、こうしたTPP支持派に反論する声と言えます。

「中国政府が猛烈批判することなら、私たちが賛成します」

 と、政府に不満を抱く人たちからはこんな声も上がっていました。

 また、中国政府が最近鷹揚に受け流している態度を見せていることに対しては、苛立ちの声も上がっていました。

「中国政府は本気でTPPを怖くないのか? 中国が海外貿易を失ったら、崩壊だぞ。中国経済の輸出依存度を分かっているのか?」

 そして、事情通による以下の指摘もありました。

「TPP賛成派はまってよ。米国でも100%TPP賛成じゃないよ。あの反中のヒラリー・クリントンも反TPPだから」

 この指摘には中国人も意外だったようです。多くの中国人は、TPPはアメリカが一丸となって進めている政策だと思っているからです。

 TPPが施行されることにより、輸入品が安くなって国民の生活が楽になるといったメリットは多々あるかと思います。ただ、日本の食や文化を愛する僕にとっては、気がかりなこともあります。

 柔らかい和牛や新鮮な魚介類など、日本産の食材は非常に品質が高く、なおかつ衛生的です。僕が訪日した当初、生の魚を食べたり生卵をご飯にかけたりする日本人の姿を見て、危険な食材だらけの中国との差に感心したものです。

 ですがTPPが実施されると、外国産の食材に対する多くの関税が撤廃されるため、日本国内に廉価な外国産食材が大量に輸入される可能性があります。そのような事態になれば、コストカットを求める食品メーカーや外食チェーンは積極的に外国産食材を使用するでしょう。そうなると日本の農業や水産業が淘汰され、大きく衰退するかもしれません。

 さらにTPPにより規制が緩和されることにより、これまで日本では使用が禁止されていた食材が解禁される可能性があります。「週刊文春」が行った調査によると、食材が危険な国は1位が中国、2位がアメリカだったように、現在、アメリカ製の遺伝子組み換え食品の危険性が世界中で指摘されています。ヨーロッパの科学者の論文によると、アメリカ産のトウモロコシを実験用のラットに与え続けたところ繁殖力が低下し、三世代目のラットからは完全に生殖能力が失われたという結果が出たそうです。

 米、トウモロコシなど、現在大量の農作物をアメリカから輸入している中国でも大きな不安が広がっています。こうしたアメリカの危険食材に対し、「アメリカが中国人を絶滅させようとしている!」などと陰謀論を唱える中国のネット民もいますが、アメリカ産以上に危険度が高いのが中国産なので、何を食べても危険というのが現状です。

 意外なものだと食材のみならず、日本独自のオタク文化が失われる可能性もあります。今後日本がTPPに参加すると、「著作権侵害の非親告罪化」が施行されるため、アニメやTVゲームのキャラをモチーフにした同人誌やコスプレなどの二次創作物が著作権侵害として禁止されるかもしれません。さらにネット上のイラストなども一斉撤去される可能性もあり、そうなると漫画家、イラストレーターなど日本国内のクリエイティブ産業は一気に衰退します。実は僕も別のペンネームで同人誌も出版しているため、これは他人事ではありません。

 TPPは、関税撤廃による製品の低価格化、競争激化による国内産業の活発化など、参加国が大きな恩恵を受けることもあるでしょうが、僕としては、日本の大事な食や文化は守って欲しいと願ってやみません。

著者プロフィール

漫画家

孫向文

中華人民共和国浙江省杭州出身、漢族の31歳。20代半ばで中国の漫画賞を受賞し、プロ漫画家に。その傍ら、独学で日本語を学び、日本の某漫画誌の新人賞も受賞する。近著に『中国のもっとヤバい正体』(大洋図書)

(構成/亀谷哲弘)

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