【世界の功績者から学ぶ・後編】「言葉」は問題を解く鍵
source:http://www.shutterstock.com/
「諸外国に追いつき追い越せ」という標語は、日本人の琴線に触れるものだ。
日本海という波の荒い海域が存在するため、日本は大陸との文化交流をあまり行うことができなかった。
それ故に、大陸から僅かに伝わる文物や交易品に大きな夢を抱き、「海の向こうには夢の国が広がっている」と考える。だが、いやだからこそ、その“夢の国”に対して強烈な劣等感を持っている。
それはまさに、ABCD包囲網の末の真珠湾攻撃であり、空手チョップでシャープ兄弟をKOする力道山であり、デトロイトが没落するまで販売攻勢を強める日系モーター企業である。
日本人はこういうニュースを聞くと、心の中で祝杯を上げる。
そういう視点でしか物事を見ることができなかった時期が、かなり長く続いた。しかしそれも、終わりに差しかかっている。
■ 国家と「緑」
以前、岡昌之氏がFUTURUSにこんな記事を投稿した。それは東ティモールの大統領補佐官ベラ・ガルヨス女史の活動にスポットを当てたものだ。
インドネシアのついての執筆が多い筆者は、どうやら日本では“保守派ライター”と見なされているらしいと最近知ったのだが、そんな澤田真一が岡氏の環境保護関連記事から受けた影響は非常に大きい。
それまでは名前しか知らなかった、ガルヨス女史について興味を持つようになったきっかけも、岡氏が与えてくれた。
東ティモール独立の戦士だったガルヨス女史は、今年5月に同国初のグリーンスクールを開校した。
インドネシアの実効支配からの独立を果たした東ティモールだが、あまりに石油基金に依存し過ぎる経済は国の将来を脅かすものだった。
いざとなったら“打ち出の小槌”に頼ればいい。その姿勢が、国民の自然環境保全の意識を奪っていく。
人々は再生可能な方法の林業を教わる機会に恵まれず、豊かな森は薪木取りのために禿げていった。以前、日本のテレビ番組の企画で「東ティモールの人々にかまど作りを教えよう」というものがあったが、これは燃焼効率のいいかまどを持つことで、森林伐採のペースを少しでも緩やかにしようという狙いだ。
確かに素晴らしい企画だが、結局かまど作りは急場凌ぎにしかならない。根本的に問題を解決するには、「なぜ緑を守らなくてはならないのか」、「もし森が消滅したらどうなるのか」ということを子どもたちに教える必要がある。
ガルヨス女史は、その地道な作業に着手したのだ。
そんな彼女の姿勢は、2011年にこの世を去ったワンガリ・マータイ女史のそれと非常に似ている。
マータイ女史は「緑化こそが祖国の安定につながる」と公言していたが、それは何もアフリカだけを指す話ではなかったのだ。
■ 大量消費社会の限界
「もしドイツ人が一世帯で所有する車と、同じ数だけインド人が持てば、この惑星はどうなってしまうのでしょうか? 呼吸をするための酸素が残るのでしょうか?」
2012年のリオデジャネイロ会議の場で、当時のウルグアイ大統領ホセ・ムヒカ氏はそうスピーチした。
作業着のような素材のジャケットにノーネクタイ、いつも安物の靴かサンダルを履いているこの老人は、「世界で最も貧しい大統領」と呼ばれている。
大統領職の報酬があれば富裕層の仲間入りができるのに、それを殆ど寄付してしまうから手持ちのカネがない。
だが本人曰く、「私が貧しいわけではなく、これがウルグアイ国民の平均的な生活水準」だそうだ。
社会福祉が完備されているわけでも、幸福指数とやらが高いわけでもない小国の大統領。
だが問題だらけの祖国の現状に自らのライフスタイルを合わせているからこそ、ムヒカ氏は大統領を退任した今でも注目を浴びている。
ムヒカ氏が現職大統領としてメキシコを訪れた際、その帰路でエンリケ・ペニャニエト大統領の専用機に便乗させてもらったエピソードは有名だ。
ムヒカ氏は専用機を持っていない。海外訪問の時でも、民間旅客機のエコノミークラスシートに座る。
一方でメキシコのペニャニエト氏の専用機は、本人がわざわざボーイング社に発注した最新鋭787-8型だ。機内にはベッドルーム、会議室、ラウンジまである。
この一件でペニャニエト氏は、「病院を訪問したばかりなのにこの贅沢三昧か!」とメキシコ国民に批判されてしまった。
「政治家は多数派の国民から選ばれているのだから、少数派の暮らしをしてはいけない」
幾度とそう口にするムヒカ氏が嫌うのは、大量消費社会だ。今現在の状態、すなわち消費を促すことで経済成長を図るというやり方には限界があるという。
消費は憧れである。少なくとも、少し前までは。
次々に供給される製品を使い捨てること、同じ品目のものを、シーズンごとに更新することこそが経済学上の理想とされ、それを実現している国は“理想国家”だった。
日本の左派が旧ソ連や北朝鮮に憧れたように、右派は大量消費社会を達成しているアメリカを絶賛した。
東西冷戦の頃は、確かにそれで良かったかもしれない。アメリカのやり方に従わなければ、ソ連に赤化されていたかもしれない時代だ。
だが今現在この世に存在する問題は、その大量消費社会がもたらしたものだ。
どんな建物もいずれ老朽化するのと同じで、我々はその時代の最新工法で常に建物をリフォームしていかなければならない。
■ 「言葉」が未来を変える
筆者は人類の未来を楽観視している。なぜなら、人類はその歴史を刻んでからまだ数千年しか経っていないからだ。
そして何より、人類には“変わる力”がある。氷河期に適応できなかった恐竜とは違う。人には難題を乗り越える能力が備わっていると、筆者は考える。
難解なことではない。例えば松下幸之助は、世界で初めて“商倫理”を体系化させた人物だ。
幸之助は商家の丁稚だった少年時代、20個買ったら1個オマケでついてくるタバコを買い溜め、店に来た客に売っていた。
“売る”と言ってもそれは丁稚のおつかいだから、決して商売をしていたわけではない。だがオマケ1個分のタバコがあるおかげで、それがもたらす差額の利益が幸之助の懐に入った。
ところがそのやり方が、他の丁稚に反感を買っているということを知ると、幸之助はタバコの買い溜めをやめてしまった。
商人にとって一番のタブーは“同業者を敵に回すこと”である。ここで幸之助が対応を間違えていたら、今のパナソニックはなかったかもしれない。商人が相手にするべきは客であって、同業他社ではないからだ。
こうした偉人の経験談を一つ取っても、それが社会問題解決の鍵になっていることは誰しも反論しないだろう。
我々がするべきは隣の芝生の青さを理想化するのではなく、功績者の言葉に耳を傾けることだ。
言葉こそが、世界を変えるのだから。
【参考・動画】
※ 東ティモール:ルブロラ・グリーン・スクール開校! – YouTube
※ ウルグアイ大統領退任、大勢が詰め掛け熱烈なお別れ Thousands gather as Pepe Mujica leaves Uruguay presidency – YouTube
【画像】
※ STUDIO GRAND OUEST / Shutterstock