【日本の病巣】若者はなぜ「親に感謝しない」のか

デイリーニュースオンライン

親への感謝が四カ国中、最下位の背景とは
親への感謝が四カ国中、最下位の背景とは

 財団法人国立青少年教育振興機構が行った日本・米国・中国・韓国での高校生の生活と意識に関する調査報告によると、「自分で親の世話をしたい」と考える高校生の割合が四カ国中、日本が最も低く37.9%と四割も満たないことが報告されている。

 この四カ国の中で最も高い割合を示しているのが中国の87.7%で、継いで韓国の57.2%、アメリカの51.9%となっている。もちろん、社会インフラとして、老人介護などの福利厚生が他の3カ国よりも充実していることも多少の影響を与えた可能性もあるが、これは社会人を対象とした調査ではなく、あくまでそれなりに考えや思いが感情に左右される若年層の解答であるだけに、いささか寂しさを覚えるのもまた事実である。

 もちろん、その真意は不明だが、現時点で想定できる理由は大きく二つ。一つは、「家族」という概念そのものが形骸化しつつあるのか、もしくは、高校生と言えども非常に現実な観点で物事を見定める傾向にあるのか、いずれかの一方である。

 では「家族」という概念に目を向けた時、この報告書から何が読み取れるだろう。まず、「親を尊敬しているか」との問いに、日本の高校生の解答は、割りと友好的に答えられたものを含めれば、82.9%と結構高い割合を示している。実際、2008年の調査では71.3%とあったので、そこからみればその割合は増加傾向にあるというのは喜ばしい限りだ。ただし、この割合は四カ国中最下位となっている。

 続いて、「親の期待にプレッシャーを感じるか」という問いに対して、日本の高校生の解答は29.2%とプレッシャーを感じる高校生が3割にもいかない。他の3三カ国が、中国を筆頭にすべて半数以上の割合を出しているので、この割合は極めて特徴的な傾向を示していると言えるだろう。

日本の若者は無気力・無機質

 ここで一つの傾向が浮かび上がる。親からのプレッシャーの強い中国の方が親を尊敬しやすく、プレッシャーの低い日本の親の方が尊敬されにくいという構図だ。確かに、中国における家族意識は極めて高い。私も何度か中国人留学生と話をする機会があったが、彼らのほとんどが「自分が頑張って親に恩返しをしたい」と真面目に考えている。この姿勢は日本の学生とは明らかに違うだろう。

 もちろん、日本では親が子どもの犠牲になることを望まないし、子どもの主体性を尊重するという傾向もあるかもしれない。そう思うと単純な良し悪しの比較にはならないのかもしれないが、かと言って、日本の子どもたちの自立性が高いのかと言われれば決してそうでもない。

 以前、アメリカ人留学生と話をした時、日本の授業内容を尋ねてみたら、こんな答えが返ってきたことがある。「日本の学生が授業中に居眠りをするのは考えられない」と。その真意を尋ねると、彼らの多くは入学金を親に頼ることはあっても、学費や生活費はバイトをしながら極力自分たちで工面しようとする。それだけに授業に対してもより一層の自覚を以って臨むようなのだが、日本の学生は親が全部払ってくれるから多分そうした自覚が低いのではないかということだった。確かにこれは一理あるかもしれない。これは中国人留学生からも同様の意見を聞いたことがある。

 要するに、日本の学生は親からのプレッシャーも低く、経済的支援も大きい割に、親に対する感謝する意識が低く、介護する意志も弱いということだ。もちろん、これは極端な物言い方だが、言いようによってはこんな表現も出来てしまうのもまた事実。しかも、今回のアンケート調査をみた時に見える可能性はもっと切実だ。

 実は、この他のアンケート調査からも「円満な家庭を築くこと」「社会のために役立つ生き方をすること」「お金持ちになること」「社会的に高い地位につくこと」といった社会意識を問う解答も軒並み最下位を記録している。つまり、これは家族の話だけでなく全体的に無気力感・無機質感が抜きん出ているのだ。自国で暮らすことに対する満足度は四カ国中トップにも関わらず、意欲が低いというのは一見矛盾しているようで、実は今の現代社会を如実に反映している結果とも言えるだろう。

 もちろん、これを以って今の若者の良し悪しを判断することは出来ないが、それでも前向きな意欲が低下しているということは、善悪両面の観点から冷静に分析する必要はあるだろう。やはり、若者に元気のない社会は活力の低下そのものを意味する。「成熟」というには聞こえはいいが、やはりそれだけの問題でもないだろう。改めて、日本人としての生き方を示す時が来ているのではないか。そう思えてならない。

著者プロフィール

toujyou

一般社団法人国際教養振興協会代表理事/神社ライター

東條英利

日本人の教養力の向上と国際教養人の創出をビジョンに掲げ、一般社団法人国際教養振興協会を設立。「教養」に関するメディアの構築や教育事業、国際交流事業を行う。著書に『日本人の証明』『神社ツーリズム』がある。

公式サイト/東條英利 公式サイト

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