さよならベータ!日本の黒物家電を変えたVHSとの「ビデオ戦争」の顛末

FUTURUS

さよならベータ!日本の黒物家電を変えたVHSとの「ビデオ戦争」の顛末

source:https://pixta.jp/

『ベータ』方式のビデオカセットの販売が、来年3月ついに終了する。

販売面で常に苦戦を強いられ、とうとう主流の規格とならなかったベータだが、それでもよく頑張った。このニュースに対し、「未だにベータカセットが生産されてたのか!」という声も少なくないほどだ。

かつて我が国日本で“ビデオ戦争”というものがあった。これは日本の家電業界の枠を超え、我々一般人の間でも“伝説”となっている。

黒物家電の世界では“記録媒体の規格争い”というものが度々発生する。だが、1975年から約10年間の間に繰り広げられた『VHS』と『ベータ』の闘争は、近代資本主義を語るのには非常に優れたモデルケースである。

今後も、様々な場所で歴史的教材として語られることだろう。

■ 「経営の神様」の決断

「ウチは『ベータ』は採らん。100円でもコストを安ぅせなあかん。」

1976年、松下電器本社。日本経済界の重鎮である松下幸之助は、部下にこう告げた。

この時、日本の黒物家電市場は、日本ビクターの『VHS』規格と、ソニーの『ベータ』規格の対立が注目を浴びていた。すでに両陣営は、各社を説得し味方につけている。『VHS』は日立、シャープ、三菱電機、船井。『ベータ』は三洋、パイオニア、NEC、東芝といった具合に。

だが、数ある日本の家電メーカーの中でも、松下電器だけは長々と態度を留保していた。当時既に80歳を超え、日本財界の最重要人物と見なされていた幸之助の動向は、その後の市場の姿を決定づけるほどの意味合いを含んでいた。

『VHS』と『ベータ』。この両者を比較すると、実は『ベータ』の方が製品として優れた性能を発揮している。

まずは画質。この点については両規格発売当初から叫ばれていた。そもそも『ベータ』は業務用ビデオの民生版とも言うべきもので、故に画質は『VHS』に負けるはずもなかった。

一方の『VHS』は、それと引き換えに録画時間が長いということをアピールしていたが、それ以外の目立ったアドバンテージはなかった。

そして『ベータ』のカセットは、サイズが小さい。当時のソニーの社員手帳と同じ大きさ、というのが宣伝文句だった。

小型の記録媒体と高画質。この2点はハイアマチュア、今で言う“オタク”に該当する層に歓迎された。

だが全ての鍵を握る男、松下幸之助の考えは違った。

■ ハイアマチュアより一般層

miggle age man watching tv at home

「客の好むものを売るな。客のためになるものを売れ」

幸之助は、このような言葉を遺している。

そんな経済界の重鎮は、ビデオ戦争では最終的に『VHS』を選んだ。なぜか?

まずは後発参入メーカーにとって、より製造コストの安いデッキを選ぶことが条件として欠かせないという考えである。だが肝心なのは、それ以外の理由だ。これは幸之助の姿勢をよく表している。

「『ベータ』のデッキは重い。せやからデッキを買うたら配送を頼まなあかん。『VHS』のデッキはわしでも運べる。お客さんは、買ったものをすぐに確かめたいんや。」

『VHS』のデッキは自力で家まで運べるから、一般ユーザーはより軽いほうを選ぶというのが幸之助の発想だった。

9歳から丁稚奉公から始め、常に商売一筋に生きてきた幸之助の脳には、「これを買ったら客はその後どうするのか」というものがあったようだ。少なくとも幸之助の発想は、マニアックな知識と性能の充実を最優先する、ハイアマチュア思考の人間には絶対に理解できない。

だが史実は、性能面に優れるはずの『ベータ』が『VHS』に押されてしまった。課題であった録画時間の短さも改善しつつあったのに、だ。

幸之助の姿勢は、言い換えれば“一般層ユーザーへの分かりやすさ”を第一に考えるものだ。

その点で言えば、『ベータ』はハイアマチュア層にこだわり過ぎた感がある。

例えば、ベータカセットの『L-250』という製品は“250フィートのフィルム長を有するカセット”という意味合いだが、ではその250フィートで何分の録画が可能なのか知っている一般層ユーザーは少ない。

大体、日本はメートル法が定着した国である。100メートルと250フィートのどちらが長いのか、知らない日本人のほうが大多数だ。

『ベータ』の敗因は、そこに見出すことができる。

■ 懐かしのビデオ映像をスマホで再現

source:VHS Camcorder – rarevision.com

“専門的技術”の売り込みを意識するあまり、一般層への浸透の機会を見失ってしまった『ベータ』。それでも『VHS』の影で細々とその寿命を伸ばしてきたという功績は、やはり驚嘆すべきものである。

そういえば、筆者の執筆ではないのだが以前FUTURUSでこのような記事があった。

VHS風の動画が撮影できるスマホアプリを紹介したものだ。この画質の粗さは、当時のオタクの間では“日本ビクターのウィークポイント”と言われていたものだ。

だが時代が進むと、その粗さが好きだったというユーザーが現れた。

“ビデオ戦争”の残光は、今もまだきらびやかな尾を引いているのだ。

【参考・画像】

※ ベータ方式のビデオテープ 販売終了へ – NHK

※ VHS Camcorder – rarevision.com

※ ぺかまろ / PIXTA

※ peus / PIXTA

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