小中学生の学力、県内ワースト2位から数年でトップへ!豊後高田市の「学びの21世紀塾」とは?
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皆さんは豊後高田市をご存知だろうか?
大分県の北部、国東半島の付け根にある人口2万3千人ほどの小さな町。高齢化と人口流出が続く日本の多くの地方同様に、長年過疎化に悩まされてきた典型的な田舎町だ。
そんな名もなき小さな町が、今、日本全国から熱い注目を集めている。
「2003年の県内学力テスト市町村別成績で小中学生ともに県内ワースト2位」
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「2005年に中学生が、2006年に小学生が県内トップへ。その後6年連続首位!」
「全国大会どころか県大会優勝もほとんど無かった学校部活動」
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「2013年、全日本少年軟式野球大会で市立高田中学クラブが全国制覇!」
「高齢化と人口流出の一途をたどる過疎地域」
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「2013年、全国住みたい田舎ランキング1位獲得。2015年、全国移住ナビ・総務大臣賞受賞!」
にわかには信じ難い変貌ぶりだ。いったい何がこの町を変えたのだろうか?
■ 豊後高田ルネサンス
豊後高田ルネサンス(文化復興)の契機は、2002年に訪れた。
この年から運用された新学習指導要領、いわゆる“ゆとり教育”により、学習内容・時間の3割減と学校週5日制が始まった。
しかし、これに多くの保護者が当惑する。豊後高田は共働き世帯が多く、市内には大手の塾なども無い。市外の塾へ通わせられる一部を除いた、多くの子供たちは取り残されるのではないか……。
教育こそが地域社会存続の礎になる……、そう確信した豊後高田市教育委員長は市長に、誰でも無料で受けられる“公営の寺子屋”設置を提言。
こうして、永松博文市長を塾頭とする現代の寺子屋『学びの21世紀塾』プロジェクトがスタートした。
だが、「“ゆとり”に逆行する政策だ」、「市による無料の学習支援は民業の圧迫だ」といった意見も続出し、事態は難航する。
そんな中で、2003年の豊後高田ショックが起こった。県内の市町村が参加した一斉学力検査で、豊後高田の小中学生の学力は県平均を大きく下回り、23市町村でビリから2番目という結果に終わったのだ。(ちなみに大分県の学力は全国レベルでも沖縄や大阪に次ぐ下位にあり、県内下位というのは全国でも限りなく最下位に近いことを意味する)
この衝撃の結果を受け、21世紀塾プロジェクトは本格的に始動した。
21世紀塾の注目すべき点は、以下の3つが挙げられる。
■1:人的・箱物資源の有効活用
■2:町全体で子育て・教育、新事業の創出
■3:現役教師・市の財政への負担軽減
■ 眠れる資源を掘り起こせ、持てる力をフル活用せよ!
21世紀塾は、まず土曜日の寺子屋講座から始まった。市内の公民館や小学校を利用しての学習支援やパソコン教室などだ。
幼稚園児・小学生には簡単な英会話や国語・算数教室を、中学生には英・国・数の補習授業を行った。
講師たちはボランティア(有償。講師料1時間1,500円)の一般市民。引退した元教員をはじめ、個人塾経営者、大学生などが自ら買って出た。また、地域に眠っていた人材も登用。
元銀行員や留学経験のある主婦、海外生活経験のある居酒屋スタッフなども“先生”として参加した。
また、中学3年生向けの夏季・冬季特別講座もスタート。各1週間の集中講座で、市外から著名予備校講師を招いての本格的な授業だ。もちろん生徒は無料で参加できる。
2008年からは、中学生向けに水曜日講座がスタート。市内6つの中学校で、部活動の無い水曜放課後に補習授業も始まった。また、市内の全幼稚園で英語遊びや文字遊びのクラスも展開。
2009年には寺子屋昭和館、2011年には寺子屋プラチナ館がオープン。小学生の毎日の放課後学習の支援を強化。ここで子供たちは市民ボランティアスタッフから常時きめ細かな学習サポートを受けることができるようになった。
だが、市町村合併で広域化した豊後高田市では、遠隔地に住むゆえに施設に通えない児童生徒もたくさんいる。そんな子供たちの為に、テレビ寺子屋講座も行われている。
電波混線地帯として有名な豊後高田では、ケーブルテレビの普及率が100%近い。
そのネットワークを利用したテレビ講座では、小学校高学年向けの英・国・算数、中学生向けの英・国・数、そして理科・社会を加えた高校受験対策の5科目講座が1年を通して放送される。
もちろん出演するのは市民や教師たちだ。各学校では講座のDVDも無料で貸し出しされている。
■ 子供にも大人にも市民としての自覚と連帯感を!
また、市民たちは学習支援だけでなく、様々な講座やアクティビティを通して21世紀塾へ参加することができる。
『わくわく体験活動』は遊びや地域活動参加を通じて子供たちが学び、楽しめる、人気のプログラムだ。地域の老人会や歴史・伝統保存会、社会活動組織のメンバーが中心となり、放課後や週末に行われている。
世代間の交流と地域社会を通した学びの機会は、子供たちにとっても高齢者にとっても意義のある活動だ。
少子化・過疎化に悩む自治体にとって、子供たちのスポーツ活動は大きな関心事となっている。全校生徒が数十名から百名程度の小中学校が多くなり、これまでの学校単位のクラブ活動が機能しなくなってしまっているからだ。
そこで21世紀塾ではスポーツの支援も重点的に行った。
『のびのび放課後活動』では、小中学生が放課後に市内各拠点校に集まり、スポーツを楽しめる環境を整えた。一校一校に予算を付けても中途半端に終わってしまうので、効率的に集約したのだ。
そして教員だけでなく市民も指導に参加できるようにし、29種のスポーツ団体を設立。世代間の垣根を取り払って、スポーツを楽しむ環境を推し進めた。
小学生のうちから、他の学校の生徒と練習したりすることで交流や結束が進み、中学・高校での県大会優勝という成果も出始め、2013年の全日本少年軟式野球大会における市立高田中学クラブの全国制覇という快挙も生まれた。

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また、市内の小学6年生が参加する4泊5日の合宿も、中学生になるにあたり連帯感と自覚を高める役割を担っている。
保護者にもこの合宿は、返って来た子供たちが見違えて見えると好評だ。これから豊後高田市民となるにあたっての、ある種の通過儀礼・イニシエーションとも言えるだろう。
21世紀塾の成功は、これら教育支援だけではなく、市民育成・事業創出の一面も持っていたことが大きい。
講師やスタッフとして参加する市民ボランティアは、報酬を受けるだけでなく、自身の営業活動も行うことができる。このインセンティブが無ければ、ここまで大きくなることは難しかったかもしれない。
普段は個人塾を経営する講師にとっては、子供たちが勉強に興味を持ってくれることが一番の報酬となる。21世紀塾だけでは物足りなくなった子供が、自身の塾の生徒になってくれるからだ。
気軽な気持ちで講師として参加した主婦が、教育に“目覚めて”しまい英会話塾を開業したという事例も。それまで“人材”と見なされてなかった人たちが、自身の能力に気が付き、新たに事業を起こすという良い“副作用”まで市にもたらしている。
また、21世紀塾出身者が高校生や大学生になって、今度は”先生”役として小中学生の学習サポートをするケースも増えてきた。
一度県外の大学に出て、そこで初めて豊後高田の取り組みの意義を知るケースもある。それまではこれが”当たり前”のことだと思っていたのが、他地域に出て初めてそれが”当たり前”ではないことを知り、そこに秘められた重要性に気が付くのだという。
当初に講師役として活躍した第一世代が引退し始め、かつて塾生だった子供たちが大人になり、大学を卒業してまた豊後高田に戻り始めている。この循環が強く太くなってこそ、本当の地域社会活性化が見えてくるだろう。
■ コスパの高い教育改革と地域社会作り

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こうして市民が主導して教育にあたることにより、現役教員の負担は大きく軽減しているようだ。
本来なら必要ではないことに時間や精神を疲弊されることなく、本来の業務に集中できるようになった。
そして講座の受付やサポートなど手伝いながら、子供たちの学校以外での姿や親たちの様子も知ることができる。地域と学校が分け隔てなく情報を共有することは、子供にとっても大人にとっても非常に意味が大きいだろう。
学校や地域社会に一方的に仕事や責任を押し付けるのではなく、融合させることにより効率化を図る。本来、地域社会があるべき姿を豊後高田市は再現しただけなのかもしれない。
この21世紀塾には年間1,500万円しか運営費がかかっていない。どこの地方でも持っているハコモノや、人材など眠っている資源をフル活用しているだけで、こんな奇跡のような結果が出てしまっている。もう驚くとしか言いようがないだろう。
もっと大きな効果は、これが他の市町村へも波及し始めたことだ。豊後高田市の奇跡を見て「あれなら自分たちにもできる」と思った県内の自治体が出始めた。
当然すべては真似できないだろう。豊後高田の奇跡は、自治体の大きさなどにもよるところが大きい。もし豊後高田に大手予備校など民間有力企業があったら、こういう結果にはなっていなかったかもしれないからだ。
でも、地方の田舎町が坐して死を待つだけの存在ではないことを、豊後高田は身をもって示した。
地方創生や一億総活躍社会といった言葉が躍る今の日本社会にとって、何か大きなヒントを与えてくれる現象なのかもしれない。
【参考・画像】
※ 豊後高田市「学びの21世紀塾」
※ 豊後高田市 – 全国移住ナビ
※ Matej Kastelic / Shutterstock
※ lazzarone / PIXTA
※ m.Taira / PIXTA