【奇跡】 駅員として9年間も信号操作員を務めたヒヒがいた!

19世紀の終わり頃、南アフリカ・ポートエリザベスのヴィテンヘイズという駅には、「ジャック」という名の駅員がました。
彼は掃除などの雑務から信号操作まで、日々、安全に確実にその任務をこなしていました・・・チャクマヒヒでありながら(!)
チャクマヒヒとは、南アフリカ産のオナガザル科に属する、灰褐色をした体長約75cm、尾長約45cmのヒヒです。砂漠・サバンナ・岩山などに住んでいて、チンパンジーやオラウータンのように利口だといわれています。
とはいえ、人命にもかかわる責任重大な仕事です。いかにしてヒヒはその重要任務を果たしていたのでしょうか?
ジャックが駅員として働き出すようになったのは、ジェームズ・ワイルドさんの不慮の事故がきっかけでした。ワイルドさんはヴィテンヘイズで働く駅員だったのですが、あるとき線路に滑り落ちて汽車にひかれ、両脚を失ってしまいました。
これまでのように勤務ができなくなってしまったジェイムズさんは、ペットであるジャックの手を借りることを思い付きます。
まずは、車いすに乗った自分を、仕事場である信号操作室まで運んでもらうことに挑戦し、成功。
その後ジャックはさらにいろいろなことを覚え、電車が通過する際、運転士にポイント・キーを手渡すなど、簡単な雑務をこなすまでになります。
最終的には、信号機のレバー操作まで完璧にマスターしてしまいました。まったくミスのないレバーさばきに、とうとうジャックは、ジェイムズさんの指示がなくても、ひとりでレバー操作を任されるまでになったのでした。
単にレバーを上げ下げしているのではなく、ジャックはきちんと信号を確認し、接近してくる電車をしっかり見守って作業にあたっていたそうです。
こうした仕事ぶりが認められ、ジャックは正式な鉄道職員となり、なんと報酬をも得るようになったのです。1日に2セントの給料のほか、土曜日にはボトル半分のビールが支給されたそうです。
ジャックは1890年に亡くなるまで鉄道作業に従事しました。この間9年、なんと一度も事故を起こさなかったというから驚きです。ジャックの亡骸は通い慣れた信号操作室の脇に手厚く葬られたそうです。
後にも先にも、信号手を務めたヒヒはジャックのみ。ちなみに、同じ南アフリカには、「ジョック」という名のサルで、ジャックのように信号手をつとめたサルもいたそうです。こちらも、週7ペンスに土曜日にはボトル1本のビールと、ちゃんとお給料をもらって働いていたようです。
芸の域を超え、社会人として立派に任務を全うしたヒヒにサル、ホントすごいですね。それにしても、彼らはいったいどんな思いで勤務にあたっていたのでしょう? そして、全部現物支給の方が嬉しかったりして等々・・・胸中もろもろ去来するエピソードでした。
文・鈴木ゆかり
※参考
『動物ウソ?ホントの話(ロルフ・ハリス著/松井みどり訳/新潮社)』 『日本語大辞典(梅棹忠夫・金田一春彦・阪倉篤義・日野原重明 監修/講談社)』