吉田豪インタビュー企画:紀里谷和明「『CASSHERN』ファンもいるのに隠れキリシタンみたいに…」(1) (4/5ページ)

デイリーニュースオンライン

『CASSHERN』は興行面でも失敗していない

──そのへんのバックボーンは全然知られてないじゃないですか。これを聞いて「なんだ、こっちの人間なのかよ!」とか思う洋楽好きも結構いると思いますよ。

紀里谷 そうなんですよ! だから、しょっぱなに『CASSHERN』っていうのもよくなかったのかも。

──それも、いまとなってはデビュー作で『新造人間キャシャーン』を実写化するのも信用できるチョイスに思えてくるわけですよ。ハリウッドが『バットマン』だったら日本ではこれだ!ってセンスが。

紀里谷 そう(笑)。ただね、どっかでねじ曲がってひねくれてるときがあって。あの当時、宇多田ヒカルさんのPVをずっとやってる時期に映画を撮るとなったら、もうっちょっとオシャレなほうにいけたわけですよね。『バッファロー66』とか、わかりますよね?

──もちろん。そういえば紀里谷さんの一番好きな映画がデヴィッド・リンチの『イレイザーヘッド』って言ってるのを見たときも信用できると思ったんですよ、「そっちなんだ!」っていう。

紀里谷 ハハハハハ! ただ俺、そのとき思ってたのが、それをやってしまうと抜け出せないと思ったの、その袋小路から。どんどんそうなっちゃうじゃないですか。オーディエンスの顔が見える、球を投げる先が見えちゃうもの作りはちょっといかんだろっていうのが俺のなかにあったんですね。

──ただ、音楽に関してはオーディエンスの顔が全部見えるような活動をやってたわけじゃないですか。

紀里谷 そうそう、音楽に関してはそうなんですよ。どっか潜在意識のなかでそれに対する抵抗感みたいなものがあるのかもしれないですね。それっぽい人たちに対する。

──その結果、そこじゃないところに届けたくなった、と。

紀里谷 そうそう、そうじゃないところに行きたい、それをやらなければいけないっていうのがあったんですよ、僕のなかで。

──宇多田さんのPVとかで、広い層に届いたことで変化があったんですかね。

紀里谷 ああ、そうかもしれませんね。それまではファッションフォトとかやって、届いたっていったって数万人だったんですよ。それが『traveling』とか『SAKURAドロップス』でああいうことやって、一気にもうヘタしたら日本じゅうの人間が観てるみたいなことになったわけですよね。そこから、初めて自分の枠の外の人たちとつながった感覚がしたんですよ。それを映画に求めてるんだと思うんですよね。いまどんなに音楽が売れたっていっても100万枚は売れないわけで。そもそも自分がやろうとしてる音楽なんて狭いところに届くようなものじゃないですか。それはそれでいいんだけど、たとえばこないだ赤穂市の田舎に行って居酒屋で飯食ってたら、オジサンが「おぉっ、『GOEMON』観たよ!」みたなことを言うわけですよね。そういう経験しちゃうと、すげえなと思って、そこに魅力を感じちゃうんですよ。

──その結果、選ぶのが『CASSHERN』なのはさすがですよ。

紀里谷 ハハハハハ! そんなに大げさに考えてなかったんです、そのとき。自主制作で白黒の16ミリで撮ろうぐらいの気持ちだったの。それこそ塚本晋也さんの『鉄男』とか、ああいう感じでいけるんじゃねえかぐらいに思ってたんですよ。

──自主制作で評判よかったら、あとでちゃんとリメイクすればいいや、みたいな。

紀里谷 そうそうそう。そう思ってたのが、なんか知らないけどデカいことになってて、気がついたら6億とか予算ついちゃって、気がついたら寺尾聰さんとか樋口可南子さんとか、最終的に唐沢寿明さんまで出てきちゃって、おいおいおいってなっちゃった。そういう流れになってたんでしょうね。でも、それがなかったら『ラスト・ナイツ』もないですから。『CASSHERN』については、いろんな人が評論家的な発想で、その当時「ダメだ」とか「映画じゃない」とか言われてたことが、ひとり歩きしちゃってる感じがすごいするわけですよ。

──観ないで駄目だと思っている人は多いでしょうね。

紀里谷 でしょ? 観てないのに言っちゃってる人たち、俺に会ったことないのに「紀里谷は嫌いだ」って言ってるのと同じように、それが定着しちゃってる感じがすごいするわけですよね。いまだに地方に行くと、『CASSHERN』のパンフレットとかDVD持ってきて「サインしてください!」みたいな人たちもホントいっぱいいるんですよ。外国に行ってもいっぱいいて。これ全然みんな好きじゃん! ネットでもいっぱい好きだって言われて。

──興行収入もよかったし。

紀里谷 そう、収入もよくて、これ何がいけないの?って感じなんですよね。ただおもしろいのが、ネット上で好きだって言ってる人たちも、「みんなは悪く言ってるけど私は好きだ」とか、なんか認めちゃけないみたいな、隠れキリシタンみたいなことになっちゃってね(笑)。

──わかります。紀里谷作品を誉めるのは勇気がいるんですよ。

紀里谷 でしょ? それってどうなの?っていうのがあるんですよね。

──ぶっちゃけ、今回の映画も感想を求められるのは結構勇気いったんですよ。これはどう答えるべきなんだ、みたいな。

紀里谷 ハハハハハ! そうなんだ。だから、評論家の人たちもそういうのが起きちゃってたんですね、その当時。そういう論調になっちゃったから、それに沿っていかなきゃいけないんじゃないかっていうのがあったような気もする。それに大衆も影響されて。

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