吉田豪インタビュー企画:紀里谷和明「『CASSHERN』ファンもいるのに隠れキリシタンみたいに…」(1)

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吉田豪インタビュー企画:紀里谷和明「『CASSHERN』ファンもいるのに隠れキリシタンみたいに…」(1)

 プロインタビュアー吉田豪が注目の人にガチンコ取材を挑むロングインタビュー企画。今回のゲストは映画監督、カメラマンの紀里谷和明さん。映画監督としての3作目である『ラスト・ナイツ』(現在絶賛公開中!)で、クライヴ・オーウェンやモーガン・フリーマンという超一流役者陣を迎えてのハリウッドデビューを果たした紀里谷さんに特大ボリュームのロングインタビューを敢行! 第1回の今回、まずは、なぜか嫌われてしまう紀里谷さんの人間性に迫ります!

頼まれた仕事は全部やろうと思った

紀里谷 (元気に)よろしくお願いします、紀里谷です! 今日はありがとうございます! 吉田さんは日本で一番のインタビュアーという噂ですからね。

──余計なプレッシャーかけないでください(笑)。ボクは紀里谷さんに関しては何か余計な噂を聞いてたわけじゃないんですけど、ここ最近でイメージが相当変わったんですよ。

紀里谷 最近のいろんな露出でですか?

──そうです。

紀里谷 ホントうれしい! もうちょっと早くこういうことしとけばよかったね。

──正直言って、気取った雑誌にしか出ない人っていう印象でした。

紀里谷 ああ! そうじゃないんですけど、そうなっちゃってたんですよねー。だって裏方ですから。

──もともとカメラマンですからね。

紀里谷 カメラマンだし監督だしね。客商売っていう意識がなかったもんですから、そういうところがいかんですね。これは理解しました。そういうこと言ってられないんだって、今回ホントに。

──まさか『週刊大衆』や『アサヒ芸能』にまで出ると思わなかったですよ(笑)。

紀里谷 ハハハハハ! だからそういうところも、こっちから率先して行かないとって思うようになりました!

──なんでそこまで変われたんですか?

紀里谷 なんかね、やっぱり作品までもがそういうふうにしてジャッジされちゃうわけですよ。作品は自分の子供みたいなものなんで、親が嫌われると子供まで嫌われちゃう的な。

──「あそこの家の子とは遊んじゃいけません!」パターンですね。

紀里谷 そうなると非常に嫌だってことに気づいたんですよ。

──作品もいけすかないイメージになっちゃう、と。

紀里谷 そうそう、子供までもがそういうふうに見られてしまったら非常によくない、かわいそうだという思いがありまして。だからホントにそこは、メディアに出て話をすることが嫌いなわけじゃないんで。ただ、やっぱり自分は裏方なんだって意識は常に常にあったもんですから、あんまり出ていかなくてもいいもんだと思っていたんですけども、やっぱりちょっと違いましたね。

──これだけ出たら、手応えは相当あったと思うんですよ。

紀里谷 それが、自分としては常日頃、友達付き合いにしても人付き合いにしても、なるべくフラットにやってるつもりなんですよね。そもそもそういうふうに生きてるんで、逆にそう言われてハッとする、みたいな。たとえば『しくじり先生』に出て、「イメージ変わりました!」とか言われて、「え、逆にそういうふうに思ってたんですか?」っていう。

──本人としては、ただ素を出したようなものだったけど。

紀里谷 そう、だから俺のこと知ってる人は「いつもどおりじゃん」って言うわけですよ。だから、驚きはありました。どっか鈍感なんでしょうね。

──全然気付いてなかったんですか!

紀里谷 そんなふうに思われてるんだとか、人がそういうふうに取るんだって思わないんですよね。

──テレビもちゃんとした番組にしか出てないイメージがありました。

紀里谷 こちら側で選んでるつもりもなかったんですよ。『GOEMON』のときは『情熱大陸』とかに出させていただいて、それは宣伝チームが持ってきた仕事なんで「はい、わかりました」って言って出ただけだから、そんな意識がないんですよね。

──それが『アウト×デラックス』に出たぐらいから、イジッても大丈夫な人なのかなって思えてきたんですよ。

紀里谷 そうそう! 『芸能人格付けチェック』に出た頃、人から頼まれた仕事は全部受けようって決めたんですよ。理由はよくわかんないんですけど、人から頼まれたこととかお願いされたことは全部やろうって決めて、そしたらGACKTからいきなり連絡あって。

──『格付け』といえばGACKTさんですからね。

紀里谷 あ、そうだ。それを新年の抱負にしたんだ。「今年は毛嫌いしないで頼まれたお仕事は全部やる」って

──それまでは結構選んでたんですか?

紀里谷 選んでたし、あんまりそういうところに出たくないっていうのがあったんですよね。そしたらいきなり『格付け』のオファーが来ちゃったもんだから、これは神がそう言ってるんだと思って出て。それからマツコさんの番組もオファーが来たから番組すら観ないで、出ちゃっただけなんですけどね。

──そしたら、なんとなくバラエティでもイケるんじゃないかっていう感じになってきて。

紀里谷 だから、イケるイケないって感覚が俺のなかにないんですけど、いまいっぱいテレビに出させていただいてすごい勉強にはなってるんですよね。マッコイ斉藤さんっていらっしゃって、その方とも友達なんですけど、テレビの話とか聞いてるとおもしろいなって。

──紀里谷さん自ら宣伝活動をしているわけだから地上波効果も感じるんじゃないですか?

紀里谷 そうですね。やっぱりどうしてもそこをやらなきゃいけないっていうのがあって。いま真逆というべき路上のビラ配りもやってますけど、そのコンビネーションだなって思いますよね。最初はビラ配ってても誰も気づいてもくれないし、「いらない」って反応なんですよ。それがテレビに出てビラ配りやってると、向こうから「ちょうだいちょうだい!」って来てくれるから、テレビってすげえなと思いますよね。

──ビラ配りも相当やってますよね。

紀里谷 とにかく空いてる時間は全部これに突っ込むって決めてますんで。

──インタビューの露出も異常なレベルだと思いますよ。

紀里谷 そうですか? それを自分がわかってないんだけど。

──スタッフ いや、異常です。

紀里谷 あ、そうなんですか(笑)。でも、そうやってインタビューしていただけて取り上げていただけること自体すごくありがたいなと思いますし。だって一番最初のほうってテレビのパブを取るのもすごいたいへんだったしね。

なんで誤解されてしまうのか、教えてほしい

──その結果、ようやく人間性が伝わってきたというか、会ってみると悪い人じゃない、みたいな感じになるタイプだと思うんですよね。

紀里谷 そもそも、なんで悪いイメージがついてるんだっていう(笑)。そこなんですよ、俺いつも言ってるのは、テレビに出てるわけでもなく、何に出てるわけでもないのに、どこでそういうイメージになっちゃったのかというところがそもそも疑問だったんです。

──『しくじり先生』だと、ある雑誌のインタビューで紀里谷さんが日本の映画界を否定したりとか、デカいこと言ったのが嫌われるようになった発端みたいな感じになってましたけど、その雑誌は見てない人のほうが絶対多いですもんね。

紀里谷 でしょ? なんか知らないけど、わけのわからない風説なんですかね。だからイジメられっ子の気持ちがわかりますよ。明快な理由がない、みたいな。

──なんとなくいけすかない(笑)。

紀里谷 なんとなくイジメられちゃう子がいる。それは長年ありましたね。でも、べつにいいやと思ってたんですけど、さすがにここまでになっちゃうと。『GOEMON』のときにも実感しましたけど、いいやって言ってられないんだって思いますよね。

──ホリエモンさんにちょっと近いと思ったんですよ。

紀里谷 ああ!

──ホリエモンさんは「俺のこと誤解するヤツはバカなだけだから」ぐらいの感じで言ってたけど、いざ捕まったりしてみて、誤解は全部解いていかなきゃいけないんだってモードに変わったじゃないですか。

紀里谷 ……とか言いながら、あの人まだTwitterとかでいろいろやってますよね。

──やってますけど(笑)。前よりは気を遣ってますよ。

紀里谷 ハハハハハ! あれで気い遣ってんだ!

──ええ。Twitterでもたまに噛みついたりしてはいますけど、大人になったなと思いながら見てます。

紀里谷 そうですか。僕も個人的に知ってますけど、全然ふつうの人でしたね。

──「会ってみると悪い人じゃない」の典型だと思うんですよ、あの人も。

紀里谷 なんなんですかね、これ。やっぱり合理的にものごとを考える人間っていうのは、ちょっと嫌がられるんですかね。

──もうちょっと空気を読んでくれよ感があるんじゃないですか?

紀里谷 そこなんですよね。ヘタなんですよ。空気を読んでるつもりなの、こう見えても。だけど、なんかズレてるんでしょうね。それがわからないんですよ、ホント。だから逆にときどき疑心暗鬼になっちゃうっていうか、「俺こういうこと言ってみんなニコニコしてるけど、もしかしてこれ違う? ダメなのかな?」「なんか俺、大丈夫なの?」とか、ときどき思うことがあります。

──意外と気にするんですね。

紀里谷 そういうとこ気にするんですよ。やっぱり嫌われたくはないじゃないですか。そう思ってやるんだけど、ホントわかんないんです。

──誤解は多い人だと思うんですよ。

紀里谷 なんでなんですか? 逆に教えてください!

──あいつ、どうせお金持ちのボンボンだろ?的な誤解もあるじゃないですか。実家がパチンコ屋ってことは裕福に暮らしてきたんでしょ、みたいな。

紀里谷 そこも自分じゃそういう意識ホントないんですよ。生まれ育った最初の頃なんて四畳半ですからね、人んちの。

──人んちの!

紀里谷 俺の1コ上の友達がいたの、幼稚園の頃からの。その子の家の1室を借りてみんなで住んでたんですよ。

──それ、かなりの状態ですよ(笑)。

紀里谷 だから、そういう意識まったくなくて。そこから親父が家を建てたけど、すんごいちっちゃい家だったし。俺が15歳でアメリカに行くんですけど、いま考えると1ドル240円の時代ですから、そういうお金があったんだとは思いますけど、ホントに質素ですから。だけど、そう見られちゃうんですね。

──15歳からアメリカで過ごしたのが大きいと思うんですよ。日本的な感覚との微妙なズレが出てきたのは。

紀里谷 その前からもそうなんですよ。その前からズレてるから、ここじゃダメだと思ってアメリカ行っちゃったんですよね。

音楽に関してはいつかはケリをつけないといけない

──全然関係ないですけど、紀里谷さんがアメリカに行ったときCBGB(※ニューヨークの有名ライブハウス)とかで音楽活動をしてたらしいじゃないですか。

紀里谷 ハハハハハ! はい。

──どんな音楽をやってたんですか?

紀里谷 あのね、いま聴いても結構ハイクオリティなものでしたよ。誰みたいって言えばいいのかな? 僕、デヴィッド・シルヴィアンとかすごい好きで。

──JAPANの。

紀里谷 JAPANよりもデヴィッド・シルヴィアンのソロ。だからLUNA SEAのSUGIZO君とすっげえ話が合うんだよ。あの人は自分のこと「デヴィッド・シルヴィアン博士」って言ってるんだけど。それとか、ご存知かわからないけどコクトー・ツインズとか。

──もちろん知ってますよ。

紀里谷 ディス・モータル・コイルとか、ああいうものが大好きで。

──むしろアメリカじゃなくてイギリス側だったんですね。

紀里谷 そうそう、イギリスの4ADとかラフ・トレードとか(※どちらもレコードのインディーズレーベル)、そっち系。わかります?

──もちろん!

紀里谷 おぉっ! バウハウスとかで始まって、そこらへんがすごい大好きで聴きまくってて、その延長線上の音楽みたいなことやってて、かなりハイコンセプトだったんですよ。

──ものすごい聴きたいですよ。音源ないんですか?

紀里谷 どっか探せば出てくると思うけど。バンドメンバーも坂本龍一さんのバックバンドでギター弾いてた人だったり、ラウンジ・リザーズのベースだったり、結構ちゃんとやってたんですよ。しかしながら続けなかったんですよね。唯一そこだけが、僕がちゃんとやってないことですね。

──ほとんどの夢を叶えてきたけど、そこだけが。

紀里谷 叶ってない。一番最初に唯一やりたかったことができなかった。だからたぶん自己分析をすると、好きすぎちゃって手も足も出ない感じ? 写真とか映像だったら門外漢というか、自分はそもそもそれをやる人間じゃないっていう思いがあったから、なんとなく「これぐらいでいいんじゃない?」「そこに俺自身は投影されてないからいいじゃん」っていう思いがあって、バンバン作品が発表できたわけですよ。

──だけど、音楽だとこだわりすぎちゃう。

紀里谷 そうそう、コード進行ひとつ取ったって、「こっち? これじゃ……いや、ちょっと待って」みたいなことを延々やるわけですよね。音ひとつにしても、すごいプログラミングしちゃうし。結局のところ、曲を作り始める前に音源を作るだけでヘトヘトになっちゃうみたいな領域で、最後のほうは手も足も出なくなっちゃってました。あれなんなんですかね?

──好きすぎるのも良くないんでしょうね。

紀里谷 映画も5年に1本しか作れないっていうのは、結局そういうところがあって。PVとかだったら、いわゆる雇われ仕事じゃないですか。写真もそうですけど。発注があって、それに何かを提案するっていうお仕事だからできるんですよ。

──対象にそこまでの思い入れがなくても作れますからね。

紀里谷 そう。映画とか音楽になってくると、自分がそこに映っちゃうっていう、その恐怖なんだと思うんですよ。それは音楽のほうが大きいです。

──映画を作るとき、自分で曲もやるぐらいのタイプに見えますもんね。

紀里谷 そうそう。それはやらなきゃなと思ってるんですよ。

──いずれケリをつけなきゃいけない。

紀里谷 そう、ケリをつけなきゃいけないとずっと思ってる。だから、次の作品は音楽を先にやろうと思ってて。

『CASSHERN』は興行面でも失敗していない

──そのへんのバックボーンは全然知られてないじゃないですか。これを聞いて「なんだ、こっちの人間なのかよ!」とか思う洋楽好きも結構いると思いますよ。

紀里谷 そうなんですよ! だから、しょっぱなに『CASSHERN』っていうのもよくなかったのかも。

──それも、いまとなってはデビュー作で『新造人間キャシャーン』を実写化するのも信用できるチョイスに思えてくるわけですよ。ハリウッドが『バットマン』だったら日本ではこれだ!ってセンスが。

紀里谷 そう(笑)。ただね、どっかでねじ曲がってひねくれてるときがあって。あの当時、宇多田ヒカルさんのPVをずっとやってる時期に映画を撮るとなったら、もうっちょっとオシャレなほうにいけたわけですよね。『バッファロー66』とか、わかりますよね?

──もちろん。そういえば紀里谷さんの一番好きな映画がデヴィッド・リンチの『イレイザーヘッド』って言ってるのを見たときも信用できると思ったんですよ、「そっちなんだ!」っていう。

紀里谷 ハハハハハ! ただ俺、そのとき思ってたのが、それをやってしまうと抜け出せないと思ったの、その袋小路から。どんどんそうなっちゃうじゃないですか。オーディエンスの顔が見える、球を投げる先が見えちゃうもの作りはちょっといかんだろっていうのが俺のなかにあったんですね。

──ただ、音楽に関してはオーディエンスの顔が全部見えるような活動をやってたわけじゃないですか。

紀里谷 そうそう、音楽に関してはそうなんですよ。どっか潜在意識のなかでそれに対する抵抗感みたいなものがあるのかもしれないですね。それっぽい人たちに対する。

──その結果、そこじゃないところに届けたくなった、と。

紀里谷 そうそう、そうじゃないところに行きたい、それをやらなければいけないっていうのがあったんですよ、僕のなかで。

──宇多田さんのPVとかで、広い層に届いたことで変化があったんですかね。

紀里谷 ああ、そうかもしれませんね。それまではファッションフォトとかやって、届いたっていったって数万人だったんですよ。それが『traveling』とか『SAKURAドロップス』でああいうことやって、一気にもうヘタしたら日本じゅうの人間が観てるみたいなことになったわけですよね。そこから、初めて自分の枠の外の人たちとつながった感覚がしたんですよ。それを映画に求めてるんだと思うんですよね。いまどんなに音楽が売れたっていっても100万枚は売れないわけで。そもそも自分がやろうとしてる音楽なんて狭いところに届くようなものじゃないですか。それはそれでいいんだけど、たとえばこないだ赤穂市の田舎に行って居酒屋で飯食ってたら、オジサンが「おぉっ、『GOEMON』観たよ!」みたなことを言うわけですよね。そういう経験しちゃうと、すげえなと思って、そこに魅力を感じちゃうんですよ。

──その結果、選ぶのが『CASSHERN』なのはさすがですよ。

紀里谷 ハハハハハ! そんなに大げさに考えてなかったんです、そのとき。自主制作で白黒の16ミリで撮ろうぐらいの気持ちだったの。それこそ塚本晋也さんの『鉄男』とか、ああいう感じでいけるんじゃねえかぐらいに思ってたんですよ。

──自主制作で評判よかったら、あとでちゃんとリメイクすればいいや、みたいな。

紀里谷 そうそうそう。そう思ってたのが、なんか知らないけどデカいことになってて、気がついたら6億とか予算ついちゃって、気がついたら寺尾聰さんとか樋口可南子さんとか、最終的に唐沢寿明さんまで出てきちゃって、おいおいおいってなっちゃった。そういう流れになってたんでしょうね。でも、それがなかったら『ラスト・ナイツ』もないですから。『CASSHERN』については、いろんな人が評論家的な発想で、その当時「ダメだ」とか「映画じゃない」とか言われてたことが、ひとり歩きしちゃってる感じがすごいするわけですよ。

──観ないで駄目だと思っている人は多いでしょうね。

紀里谷 でしょ? 観てないのに言っちゃってる人たち、俺に会ったことないのに「紀里谷は嫌いだ」って言ってるのと同じように、それが定着しちゃってる感じがすごいするわけですよね。いまだに地方に行くと、『CASSHERN』のパンフレットとかDVD持ってきて「サインしてください!」みたいな人たちもホントいっぱいいるんですよ。外国に行ってもいっぱいいて。これ全然みんな好きじゃん! ネットでもいっぱい好きだって言われて。

──興行収入もよかったし。

紀里谷 そう、収入もよくて、これ何がいけないの?って感じなんですよね。ただおもしろいのが、ネット上で好きだって言ってる人たちも、「みんなは悪く言ってるけど私は好きだ」とか、なんか認めちゃけないみたいな、隠れキリシタンみたいなことになっちゃってね(笑)。

──わかります。紀里谷作品を誉めるのは勇気がいるんですよ。

紀里谷 でしょ? それってどうなの?っていうのがあるんですよね。

──ぶっちゃけ、今回の映画も感想を求められるのは結構勇気いったんですよ。これはどう答えるべきなんだ、みたいな。

紀里谷 ハハハハハ! そうなんだ。だから、評論家の人たちもそういうのが起きちゃってたんですね、その当時。そういう論調になっちゃったから、それに沿っていかなきゃいけないんじゃないかっていうのがあったような気もする。それに大衆も影響されて。

評論家と対立するつもりはないけれど……

──あのとき、本来だったら『イレイザーヘッド』とか、自分と同じような映画を好きな人たちから叩かれるのって心境としては複雑だったんじゃないですか? 

紀里谷 そうそう! だからね……うん、複雑ですよね。そこらへんの話をさせたら延々できるんですけど。かといって『イレイザーヘッド』みたいなの作りゃいいのかって話もあって。……ただ、この次の映画は、ホントにこれまでと全然違いますからね!

──そうなんですか!

紀里谷 それは興味深いと思うんですけど……なんだったんでしょうね? でもやっぱり、この年っていうのはすごい勉強したつもりなんですよ。右も左もわからないまま映画に入ってきちゃって、ハリウッドにも行ってものすごい勉強してきたつもりで今回『ラスト・ナイツ』を作ったんですけど、この10年間、3本の映画を通して自分が壮大な映画学校に行ったみたいな。こういうこと言うと出てる人たちに非常に失礼になるんですけど(笑)。

──全部つながってるわけですね。

紀里谷 すごいつながってる。1枚の写真からずっとつながってるし、もっと言えば、できなかった音楽からもつながってますからね。その当時コンピュータで音楽を作ってたから、すんなりとフォトショップにも入れたと思うし。

──評論家的なものに対する複雑な感情っていうのはだいぶクリアされてきてるんですか?

紀里谷 こればっかりは僕、ホントに対立の図式にするつもりはこれっぽっちもないんですよ。評論家って必要だと思うし。自分だって当時、そういう評論家の人たちがいたから、すんげえマニアックなバンドとか発見できたわけじゃないですか。とっても重要なことだと思うんですよ。ただ、まったく違う論点とか観点のときは「それ、そうじゃないんですよ」って反論したくなる。結局あれって欠席裁判みたいなことじゃないですか。たとえば『CASSHERN』でも、「なんでヘルメット被らないんだ」とか「なんで犬が出てこないんだよ」みたいな論調で言われちゃうと、「そこ言われちゃっても、そもそもそういうところで作ってないでしょ、俺」っていう。

──フレンダーが活躍しないとキャシャーンじゃない!とか言われても、と。

紀里谷 そうそうそう。だからそこをもっと建設的にいければ、『CASSHERN』という題材の本質的なところを読み解いていくと、オリジナルはそもそもめっちゃ暗い話だし。「原作を冒涜しやがって」って言うような人ほど、じつは原作を観ていないっていう感じがすごいしますよね。そういうのも含めて評論家と呼ばれる人たちが自己のエゴのはけ口として評論というツールを使ってるように見えるときがあるんですよ。

──この映画評論家は好きっていうのはあるんですか?

紀里谷 俺そこまで知識ないです、評論家に対して。そこまで深い評論をされた気がしないんですよね。でも、『CASSHERN』のときは、本田さんって人が唯一誉めてくれたんだよね。あともうひとり、すごい有名な人……誰だっけ? 映画評論家ですごい有名な人いるじゃん。

──ザックリしすぎですよ! もうちょっとヒントを。

紀里谷 ハハハハハ! なんだっけ? 男の人でさ。社会学者の人!

──宮台真司さんとか?

紀里谷 あ、宮台さん。

──当たった!

紀里谷 宮台さんがキリストの原罪のところまで掘り下げてて、わかってる人いるじゃんっていうのは思った。結局、元ネタがシェイクスピアだったり、キリストとかそこらへんまで遡って俺がやっちゃってるもんだから、浅く観られちゃうと違う方向になっちゃうわけですよ。まあ、そもそもそれを『CASSHERN』でやるなって話なんだけど。

──ダハハハハ! その自覚はあるんですね(笑)。

紀里谷 そうじゃなければ違う見え方してたんじゃないかなっていうのは思いますけどね。まあ、11年前の話なんで。

──なんとか再評価されるように持っていきたいですね。

紀里谷 いや俺、再評価されると思うもん。たとえば何十年後かに振り返ったときに、「21世紀の1本」みたいなのに入ると思うよ。

<続きはこちら>

『ラスト・ナイツ』

 忠臣蔵をベースに“最後の騎士”たちの戦いを描いた>紀里谷和明のハリウッドデビュー作。

 監督:紀里谷和明 出演:クライヴ・オーウェン、モーガン・フリーマン、伊原剛志、他 

 提供:DMM.com 配給:KIRIYA PICTURES/ギャガ (C) 2015 Luka Productions

プロフィール

映画監督

紀里谷和明

紀里谷和明(きりやかずあき):1968年、熊本県出身。15歳で単身渡米し、アートスクールでデザイン、音楽、絵画、写真などを学び、パーソンズ美術大学で建築を学ぶ。卒業後は写真家、映像クリエイターとして活動。2004年にSFアクション『CASSHERN』で映画監督デビューし、2008年にはアドベンチャー時代劇『GOEMON』を発表。このたび、監督作第3弾となる『ラスト・ナイツ』でハリウッド・デビューした。

プロフィール

プロインタビュアー

吉田豪

吉田豪(よしだごう):1970年、東京都出身。プロ書評家、プロインタビュアー、ライター。徹底した事前調査をもとにしたインタビューに定評があり、『男気万字固め』、『人間コク宝』シリーズ、『サブカル・スーパースター鬱伝』『吉田豪の喋る!!道場破り プロレスラーガチンコインタビュー集』などインタビュー集を多数手がけている。また、近著で初の実用(?)新書『聞き出す力』も大きな話題を呼んでいる。

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