太鼓を打つ男 林英哲 #2 心臓の音 (1/2ページ)
神奈川県の山の中に、林英哲の稽古場はある。まずは林道を40分ほどランニング。それから自分で考え出した準備運動をするのだが、これが千回(!)。軽くジャンプしながら全身の関節をゆるめ、血行を良くするという。それをすませてからおもむろに太鼓に向かい、延々と打ち続ける。その音色は明らかに、弟子が打つものとは違っている。
「音の周波数が、胎内にいるときに聞こえる母親の心臓の音と近いらしいです。小さな子供が、客席で聴いているうちに熟睡するという話もよく聞きます」
たしかにびっくりするほど大きな音なのだけれど、包み込まれるような安らぎを感じる。
「聴く方は、ふつうのメロディがあったり歌詞があったりする音楽を聴くのとは、なにかまったく違う経験をするようです。かつてデザイナーのピエール・カルダンさんは『人生の困難に立ち向かう人間を象徴しているようだ』と言って下さいましたし、『自分の今までの人生を思い出して涙が止まらなかった』という人もたくさんいました。世界中どこの客席にも、泣いている人がいます」
1952年広島県生まれ。71年『佐渡・鬼太鼓座』の創設に参加。トッププレイヤーとして活動後、81年『鼓童』創成期の演出を担当。82年太鼓独奏者として活動を開始。84年にNY・カーネギーホールデビュー。2000年にはベルリン・フィルと共演。近年では和・洋器楽奏者や伝統芸能の能・歌舞伎等の囃子方、歌舞伎舞踊やコンテンポラリーダンス、バレエのプリンシバルなど、若手アーティストとの共演も多い。今もなおパイオニアとしてジャンルを超えた世界のアーティストやオーケストラと共演しながら、太鼓の新しい音楽を創造しつづけている。CD、DVDなど多数。
近著に『太鼓日月 独走の軌跡』(講談社刊)ほか。
2016年には演奏活動45周年、2017年にはソロ活動35周年を迎える。