中国の”イスラム国”テロ対策 「ウイグル民族の弾圧」が本当の狙い?

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IS対策と称してウイグル民族が弾圧されている? (C)孫向文/大洋図書
IS対策と称してウイグル民族が弾圧されている? (C)孫向文/大洋図書

 こんにちは、中国人漫画家の孫向文です。2015年11月18日、イスラム教過激派組織IS(イスラム国)が、人質にとった中国人とノルウェー人の男性二人を殺害したことを発表しました。この事件を受け、習近平主席は非難声明を発表し、中国側はISに対し強硬姿勢を貫くことを発表しました。

 今回、中国側が懐柔策を取らなかったことは正しい対応といえるでしょう。もしIS側の要求を受け入れ身代金を支払ってしまったら、ISは第2、第3の人質事件を引き起こし、さらなる要求を行う可能性があります。ですが、政府が今回の事件を国家統制のために「有効活用」していることは、頂けない話です。

ウイグル自治区で28人が射殺

 15年11月20日、中国の新疆ウイグル自治区で現地の警察がテロリストグループ28人を射殺しました。中国の各メディアは、このテログループをISの指揮下にあると報道し、その後、中国政府は各地でウイグル民族に対する弾圧を開始しました。ネットの反応を見ると、この現状を賞賛する中国国民、主に漢族たちの声が多数寄せられています。

 かねてより、少数民族ゆえ、国内において優遇政策がとられているウイグル民族は、略奪、恐喝など中国全土で様々な問題を引き起こしており、国内人口の大多数を占める漢族たちにとっては非常にわずらわしい存在でした(事実はどうであれ、少なくとも、漢族の多くはウイグル民族にいい印象を持っていませんでした)。

 中国政府はこうした国民感情に乗じて国民たちの支持を得るために、ムスリム系であるウイグル民族をISに協力する可能性があると吹聴し、弾圧しているのです。もちろん全てのウイグル民族がテロに加担しているわけではありませんが、現状、漢族たちの大半は弾圧を支持しており、中国国内における政府に対する支持率は上昇しています。

 この少数民族を「共通の敵」と断定し、国民たちを一致団結させるという手法は、かつてのナチス・ドイツが行ったユダヤ人迫害政策とほぼ同質のものです。おそらく中国政府はウイグル民族を完全に支配し、彼らの自治区の領土と資源を奪い取ることを最終的な目標としているのでしょう。

 そして、中国政府は他国の事件すら国民統制のために利用しています。15年11月25日、トルコの戦闘機が自国の領土内に侵入したロシアの戦闘機を撃墜しましたが、この事件の詳細を見てみると、無断でトルコ領に侵入したのはロシア機であり、しかもトルコ機側から再三の警告があったにも関わらず領空内を飛行していたなど、責任は明らかにロシア機側にありました。

 この事実は日本でも報道されたのでご存じの方も多いと思いますが、中国ではひた隠しにされ、ロシア側を擁護し、反対にトルコ側を非難する報道を繰り返しているのです。

 中国政府の機関紙「環球時報」は、「ヨーロッパの多くの国がトルコ政府を非難している」という記事を掲載しました。記事を読んでみると、フランスのメディアはロシアとの協調を訴え、ドイツのメディアは「本当の敵はISだ」と、トルコ機の攻撃を批判する記事を掲載したそうです。フランスやドイツがロシアに肩入れしているのは、おそらく、これらの国が参加する「有志連合」が行うISに対する空爆作戦に、ロシアが本格的に協力しているためだと思います。

 特に、現在の空爆はパリで発生したテロ事件が発端となっているため、フランスはロシアに対し多大な恩義を感じているのでしょう。トルコは同じムスリム系国家という立場から、中国政府のウイグル民族弾圧を以前から非難しています。

 そのため、現在の中国国内においては「我々はISに協力するウイグル民族を成敗している! そのウイグル民族を支持するトルコもISの手先だ!」だという論調が広がり、国民たちの反トルコ感情が高まっています。ネット上においては、「トルコなんて、中国領土である新疆ウイグル自治区の独立を密かに加担する東トルキスタンの連中だ!」といった声が上がっているほどです。

 人質殺害事件を受け、中国のネットでは「ISを滅ぼせ!」、「人民解放軍も有志連合に参加せよ!」という書き込みが相次いでいます。それと同時に、「ISに加担するウイグルのテロリストどもを取り締まれ!」という、テロ問題と自国の民族問題を混同したような書き込みも見られます。

 現在ISのテロ活動は世界中を恐怖に陥れています。僕は各国が団結し総攻撃を行い、一刻も早くISを撲滅すべきだと考えていますが、同時に卑劣なテロすら自国の政治に利用する中国政府に対し、あらためて憤りを感じています。

著者プロフィール

漫画家

孫向文

中華人民共和国浙江省杭州出身、漢族の31歳。20代半ばで中国の漫画賞を受賞し、プロ漫画家に。その傍ら、独学で日本語を学び、日本の某漫画誌の新人賞も受賞する。近著に『中国のもっとヤバい正体』(大洋図書)

(構成/亀谷哲弘)

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