福岡市に抜かれる前に? 人口減少の神戸市が打ち出した”移住プラン”の衝撃

デイリーニュースオンライン

かつては「住みたい街」で有名だったが……
かつては「住みたい街」で有名だったが……

 福岡市が神戸市を追い抜くのか──政令指定都市で人口第5位の神戸市だが、2015年9月時点の人口推計では福岡市が153万1919人、神戸市は153万5454人と、辛うじて第5位を保っている状態なのだ。福岡市が神戸市を抜き去り人口第5位に踊り出るのは時間の問題で、若年層の人口流入著しい福岡市と、大阪・東京への転出が多い神戸市とで明暗を分けた形だ。

 今、全国的に地方自治体の財政は厳しい。地方から東京、大阪といった大都市部への人口流出が著しいからだ。そのため各地方自治体では県外からの移住者囲い込みに躍起だ。例えば岡山県鏡野町では20年間定住促進住宅に住むとこれを無償譲渡される、和歌山県高野町では保育所から中学生までの子どもの給食費完全無料化、新潟県長岡市では起業家に最大1000万円の経費補助といった移住者優遇措置が取られている。

2005年がピークで人口流出に歯止めが効かず……

 こうした財政面での課題、人口流出は政令指定都市のなかでも人口第5位の神戸市でも例外ではない。神戸市の純資産合計額は平成2010年度には4兆6506億円だったが、平成2013年度には4兆5722億円と、4年間で784億円もの減少をみせている。他方、人口は2005年を境に減少に転じており、2012年、2013年には2年連続で約2300人あまりが神戸市外に転出している(神戸市発表資料より)。

 他方、福岡市は2010年から2015年の人口増加率は4.5%と全国第1位を誇っている。人口増加率だけでみると、第2位・川崎市の3.3%、第3位・さいたま市の3%を大きく上回っていることから、人口で神戸市が福岡市に抜き去られるのはもはや時間の問題だ(福岡市資料、「国勢調査」「各都市推計人口」より)。

 そんな人口流出に悩む神戸市だが、政令指定都市では異例とも言える移住プランを発表した。神戸への移住を考えている人に「神戸暮らし」を体験して貰おうと、市は「神戸暮らし体験事業『LIVE LOVE KOBE(リブ・ラブ 神戸)』を開催する。過疎地ならいざ知らず人口第5位の政令指定都市のこのような取り組みは珍しいという。かつての「ポートピア81」で“株式会社・神戸市”の異名を取った神戸市の復活なるか。

「そもそも神戸市は地の利の面で圧倒的に不利なんですよ。京阪神地区は関東地区と比べて圧倒的にアクセスがよくない。無計画な都市開発が招いた結果です」

 関西地区の経済動向を取材する経済ジャーナリストの秋山謙一郎氏は、神戸市、そして関西地区の都市開発についてこう語る。関東に比べ京阪神の関西地区では圧倒的に人の回遊が難しいという。

「新幹線の京都駅を除き、大阪の新大阪駅、兵庫神戸市の新神戸駅、どちらも大阪市、神戸市のメインストリームから離れたところに位置しています。その点、福岡は中心部と空港・鉄道駅のアクセスもよく、韓国・中国からも近く『アジアから日本の玄関口』としても注目を浴びている。神戸市に比べて魅力的でしょう」(秋山氏)

福岡市は市債残高が2兆円を越える

 事実、京阪神地区のアクセスはよくない。新幹線・新大阪駅からJR大阪駅、そして阪急・阪神の梅田駅までJRで約10分近くの時間を要する。同じく新幹線・新神戸駅からJR三ノ宮駅まで徒歩で20分近く。バスだと10分程度、関東に比して、どこかに移動するにも公共交通機関を用いるまでに時間を要する。ここが関東地区と大きく異なる。

「関西人の気質として“個”が大事にされます。これが商売にも表れている。そのため各電鉄会社は我先にと鉄道を敷き、それに伴った都市開発が行われてきました。平たくいえば無計画なんです。それがアクセスを悪くし人の回遊を著しく阻害している」(同)

 とはいえ神戸市は観光資源が豊富で大阪にも電車で約20分の距離に位置する。大阪府近郊に勤める人たちのベッドタウンとして、また観光地としても復活の可能性は十分見込める。

「よく神戸に住む人は、『神戸が日本で住みやすい町』と思っているといわれます。実際、住んでみることで町のよさがわかることもあります。今回、神戸市の『LIVE LOVE KOBE』事業にみられる居住体験は、大規模自治体のあらたなるPRとして記憶に留められるのではないでしょうか?」(同)

 県外からの移住者を囲い込むこの「LIVE LOVE KOBE」は、“試住”をコンセプトに20歳から49歳の県外居住者を対象に平成2015年12月15日から2016年2月27日までの間行われる。3泊以上の滞在が求められ、最大14日間まで神戸市での生活を体験できる。2016年2月17日まで応募可能だ。宿泊費は無料だが、“衣・食・住”をはじめとする神戸市での暮らしを体験するツアー参加料を1人当たり8000円の負担しなければならない。

 今回の神戸市の取り組みについて国内金融機関の不動産担当者は次のように語った。

「九州の玄関口であり、対アジアの日本の窓口でもある福岡市と、京阪神地区の一角である神戸市では、その伸び代が違います。ただ人口を大勢抱えているからいいというものでもない。今回の神戸市にみられる移住政策は、政令指定都市第5位といえども安穏としていられない自治体経営の厳しさをまざまさと見せつけたもの。いい結果になることを期待したい」

 もっとも福岡市にも課題はある。市の財政は厳しく、市の借金である市債残高は2013年には約2兆4400億円と全国の自治体のなかでも高水準で、これは市民一人当たり177万円の市の借金を背負っている計算となる。第1の大阪市が市民一人当たり188万円、福岡市に次いで、京都市が160万円、神戸市が145万円となっている。

 政令指定都市といえども財政面では厳しく、住民を県外から囲い込まなければならないほど逼迫している時代、県外にまで手を伸ばし住民を誘致しようという今回の神戸市によるこの「試し住み」という試み。はたして神戸市の思惑通りに事は運ぶのか。今後の動向に注目したい。

川村洋(かわむらひろし)
1973年大阪府生まれ。大学卒業後、金融業界誌記者、地元紙契約記者を経てフリーに。週刊誌や月刊誌で活躍中
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