ゲームはやり方次第で毒にも薬にもなる。テレビゲームが脳に与える好影響(世界研究)

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ゲームはやり方次第で毒にも薬にもなる。テレビゲームが脳に与える好影響(世界研究)

 昨年10月、2万9000人の神経科学者がシカゴで一堂に会し、それぞれの研究成果について議論し合った。そこで最も多く取り上げられていたのが、テレビゲームである。  引きこもりや暴力を誘発するなど、テレビゲームの悪影響を指摘する論評は数多くある。それを裏付ける形での悪しき結果ありきの研究は多々あるが、好影響に関してはほぼ無視されてきたと言っていいだろう。確かに長時間ぶっ続けでプレイするなどすれば悪影響もあるだろうが、他にも様々な影響があるという。  最近のゲームは現実世界の制御されたシミュレーションである。プレイヤーの複雑な神経メカニズムを研究したい科学者にとっては格好の題材なのだ。 記事提供=カラパイア

ゲームがプレイヤーの脳を鍛える

出典: karapaia

 ゲームを題材とした研究には、ゲーマーとゲームをプレイしない人の認知作業を比較したものや、非ゲーマーがゲームをプレイすることで得られる神経学的な利点を研究したものがある。例えば、ドイツ、ルール大学ボーフムの博士課程に在籍する学生は、ゲーマーが得意とする作業について調査した。

 週に20時間以上ゲームをプレイする”ゲーマー”と非ゲーマーに”確率的”学習能力をテストする一般的なパズルを解いてもらったところ、ゲーマーがより優れた成績を残しただけでなく、それを解くにあたって複雑な”複数手がかり”戦略を用いていることが判明した。一方、非ゲーマーは単一の手がかりしか用いないことが多かった。

 MRIからゲーマーの脳は、学習と記憶形成に関連する前頭葉と海馬、エピソード記憶と空間学習に関連する後帯状皮質の活動が活発であることが確認されている。

環境的強化:リーグ・オブ・レジェンドの効果

出典: karapaia

 だがこうした発見で面白いのはパズル解きが得意になったゲーマーの脳そのものではない。それがトレーニングを通じて得られているということである。テレビゲームを使えば、誰でもゲーマーのように思考し、脳の特定の領域を鍛えることができるかもしれないのだ。

 カリフォルニア大学アーバイン校の博士研究員グレゴリー・デーン・クレメンソン氏は、”環境的強化”という概念を調査した。例えば、犬に新しいおもちゃや広い犬小屋など、より刺激に溢れる環境を用意した場合、海馬の機能や神経可塑性が向上する。これは多くの動物で確認された現象であり、人間にも当てはまる。より多彩な刺激を受けることで、認知機能が強化され、その衰えも抑えることができるのだ。

出典: karapaia

 クレメンソン氏と論文共著者のクレイグ・スターク氏は、複雑な3Dゲームが実際に見知らぬ場所を探索するのと同じ程度に、環境の刺激を豊かにする効果があるのかどうか確かめた。寝たきりの老人がゲームをプレイすることで、見知らぬ土地へ行くのと同じような認知効果を得ることができたら素晴らしいだろう。

 彼らは2種の基礎実験を行った。被験者となったのは、自称ゲーマーとゲームをプレイしない人だ。最初の実験では、ゲーマーがプレイしたゲーム(テトリス、ソニック・ザ・ヘッジホッグ、ゼルダの伝説などの2Dゲームや、Halo、グラン・セフト・オート、リーグ・オブ・レジェンドなどの3Dゲーム)の複雑性レベルで被験者を分類してみた。

出典: karapaia

 これらのゲームではどれも異なるレベルの次元の広がりが展開されるが、リーグ・オブ・レジェンドなどの最も複雑なものでは、カメラを操り、プレイするキャラから離れた仮想環境を探索することができる。

 プレイしたゲームの複雑性ごとに被験者を分類した後で、被験者にパターン分類作業を行ってもらい記憶力と海馬機能をテストした。するとリーグ・オブ・レジェンドのような複雑な3Dゲームを好むゲーマーほど、優れた成績を残した。2Dゲームと3Dゲームの上級プレイヤー同士で比較しても、同じ結果が得られている。

スーパーマリオ 3Dワールド vs. 現実世界

 クレメンソン氏とスターク氏の第2の実験では、基本的にゲームをプレイしない人でも同じような効果が得られるのか調査された。

 まず69人の非ゲーマーに記憶力と海馬機能のテストを受けてもらい、能力の基準が設定された。次に10日連続で毎日30分間アングリーバード(2D)あるいはスーパーマリオ 3Dワールド(3D)をプレイしてもらうグループ、全くプレイしないグループの3グループに分け、その期間中に記憶テストを実施し続けた。

 その結果、スーパーマリオ 3Dワールドをプレイしたグループでは記憶力の改善が見られた一方、アングリーバードをプレイしたグループと全くプレイしなかったグループには変化が見られなかった。

出典: karapaia

スーパーマリオ 3Dワールド プレイ画面

出典: karapaia

アングリーバード プレイ画面

 クレメンソン氏が指摘するように、この結果は得られた答えと同じだけの疑問も突きつけてくる。例えば、仮想の3D世界を探索することで、現実世界を探索したときと同じ脳領域が活性化するかもしれないが、ゲーム内で訓練することで、創造性や現実世界の場所を思い出す能力が改善するのだろうか?

 問題はゲームによって、現実世界における学習や記憶の力が向上するかどうかなのだ。クレメンソン氏が言う”翻訳”は、今後の重要な研究課題である。

ゲームで認知能力の低下を防ぐ

 彼らは現在、マインクラフトやスーパーマリオ 3Dワールドを使って高齢者の認知能力の低下を防ぐことができるのか調査している。

 なお、これに類似した研究が昨年も行われている。2003年にテレビゲーム学習を提唱し、この分野の先駆者であり続けたダフネ・バヴェリア博士は、コール・オブ・デューティやメダル・オブ・オナーなどのアクションゲームは、視覚、動作追跡、意思決定など、ゲーマーの特定の認知作業を向上させるだけでなく、学習能力も鍛えているのだと主張している。今後、大いに議論が盛り上がりそうな見解だ。

出典: karapaia

 過去30年で人間の生活スタイルは大きく変化した。物理世界を見つめて、そこに働きかけるだけではなく、現実を模した画面に働きかけるようになったのだから。科学的な観点からは必ずしも長い期間ではない。したがって、新しい行動が私たちに与える影響について研究は始まったばかりと言えよう。だがゲームの利点と落とし穴という研究分野は急速に発展している。

 「テレビゲームは単純に良し悪しを決められる話ではありません。どちらの影響もあり得るでしょうし、だからこそ、ほどほどに賢く利用するべきなのです」

 これは、最初に紹介した研究を行った博士課程の学生の言葉だ。

via:gizmodo・translated hiroching

 最近日本では、長時間のゲームプレイは、子供の脳の発達や言語知能に悪影響を及ぼす可能性があるという研究結果が発表になった。(関連記事

 確かにやりすぎると悪影響を及ぼすというのは、どんなに体の良い食べ物でも食べ過ぎると健康を害するというのと同じなのかもしれない。でもって、世界の神経学者たちはゲームが薬になる為の適切な用量・用法を模索しているってことなんだな。


記事提供=カラパイア

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