東京駅、夜8時、ロレックス、35歳【東京婚活リアリティ】 (3/3ページ)
いつも勝気な美帆子は、男に愚痴ることはしない。男のアドバイスはつっぱねる。男に頼ったら負けだとさえ思っている。
しかし今日は違う。男のアドバイスは居心地がよかった。心のドアが開き、柔らかな光と絹のような風が入ってくるように、男の話を受け入れた。
男から名刺をもらった。大手広告代理店の社名が書いてある。エリート社員の集まりで、年収も高く、勝ち組と言われている連中だ。
エリートに似つかわしくない、のんびりと平凡な雰囲気を纏う。それが美帆子を安心させた。
美帆子は、乾いた大地に水が染み入っていくように、心がしっとりしていくのを感じた。
「このまま帰れない」
◆◆エピローグ1年後、2人は入籍した。まさかバルで出会って結婚するなんて、自分でもびっくりしている。
縁とは、男と女、時間、場所が織り合わさって、舞台を作り上げる。普段は心の扉を固く閉める女も、あの日のように、非日常の空間では、扉が開く時がある。見ず知らずの男が開けるのだ。
(ライター/東 香名子)