”台湾総統選”結果に中国人漫画家が提言「中国と台湾は統合すべき」

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台湾の民主化は中国にどう影響するのか? (C)孫向文/大洋図書
台湾の民主化は中国にどう影響するのか? (C)孫向文/大洋図書

 こんにちは、中国人漫画家の孫向文です。2016年1月16日、台湾の選挙において民進党の蔡英文党首が初当選を果たし、次期総統(台湾の最高指導者)に就任することが決定しました。もともと中華社会は男性優位的な考えが根強く、女性が政治の重要な役職につく機会はほとんどありませんでした。そういった意味で今回の蔡主席の当選は、新時代の到来のきっかけとして大いに期待しています。

■台湾の民主化の歴史

 ここで台湾の民主化の歴史を振り返ってみましょう。1911年に「辛亥革命」が発生し、それまで中国大陸を支配していた清王朝が打倒され、国民党が政権を握り司法・立法・行政の三権分立主義をとる「中華民国」が誕生しました。

 しかしこの国は国民党以外の政党は認められておらず、本当の意味での民主主義国家ではなかったのです。その後中国には共産党が設立し、国民党とは対立状態になります。そして第二次大戦後、「国共内戦」にて勝利をおさめた共産党が中国の政権を握り、敗北した蒋介石率いる国民党員たちは新たに台湾に政権を築きました。

 政権樹立後、台湾では国民党による独裁制政治が行われましたが、1980年代、蒋介石の息子で総統だった蒋経国が野党の成立を容認したことにより、台湾は一気に民主化へと向かいます。この政策の変更は冷戦時代だった当時、中国をはじめとする共産主義陣営に立ち向かうため、アメリカの議会制民主主義の思想を取り入れたためだと言われています。

 そして1996年、国民選挙により李登輝が当選し、台湾では歴史上はじめて民衆の力により総統が選出されたのです。また、このころから台湾国内では議会制民主主義が本格的に行われるようになったため、李登輝は「台湾民主の父」という異名が名付けられます。

 2000年には民進党の陳水扁が総統に就任し、史上初の政権交代が発生します。その後、陳政権は数々の汚職問題が暴露されたことにより急速に支持力を失い、2008年に退陣します。総統から退陣後、陳水扁は起訴され懲役20年の刑が課せられたのですが、この事件を知って驚く中国人は数多くいるのです。罪を犯したとはいえ、陳水扁は一国の最高指導者だった人物です。中国では権力者が犯罪を行った場合は権力でもみ消してしまうことが多いのです。日本でも元総理大臣だった人物が、汚職の容疑で逮捕されたことがあると聞いたことがあります。

 このように民主主義国家では、どのような権力者でも罪を犯せば法の下で裁かれます。一部の中国人は「台湾は総統でも罪を犯せば監禁だ。中国の主席はいくら賄賂を行っても罪にはならない」と、自国の体制を揶揄するとともに、台湾の民主主義に嫉妬するのです。

 台湾は国際法上、独立国家として承認されていません。そのため中共政府は自国の教科書には「台湾『省』」と記載し、中国国民たちには「台湾を奪還することは中国の使命」だと鼓舞します。そして国連の会議で台湾が独立国家扱いされた時に猛反発し、台湾の選挙を報道する際は、台湾国旗と「総統」という文字にモザイクをかけるなど、中国は台湾があくまでも自国の一部であると国内外に猛アピールしているのです。

 そのため多くの中国人は「台湾独立」というキーワードに嫌悪感を抱きます。過去には台湾に訪れた中国人が、「なぜ五星赤旗(中国国旗)を掲げない!」と抗議した事例があるそうです。中国在住時の僕もそうでしたが、訪日し、日本の方々や親日派中国人たちと触れ合う内に考えを改めました。

 僕自身はいつか中国と台湾が統合することを夢見ています。しかし多くの中国人が望むように台湾が中国に吸収されるのではなく、現行の台湾政府が統一中国の政権を握るという形を望んでいます。仮に中共政府が退陣したとしても、中国本土には他の政党が存在しません。そこで台湾の多党制をそのまま採用すれば、比較的短期間で中国には民主主義が定着すると考えています。

 台湾独立を唱える蔡英文党首の当選に対する中国のネットの反応を見ると、祝福する声もわずかながらある一方、「ただの台湾省長だ! 生意気な態度をとるな!」、「勝手にリーダーを名乗るな! 習近平主席の任命が必要だろう!」、「中国人13億人で唾をかけて台湾を沈めてやる!」、「蔡英文は台湾独立派で親日売国奴だ! 奴の下に核ミサイルを打ち込んでやれ!」などと、過激な反対意見が吹き荒れていました。

 これは台湾を見下せと吹聴する中共政府の政策の影響でしょう。そして最近はSNS上で「愛国的」中国人が急増しているようです。彼らは互いにVPN(共有ネットワーク)を使用してアカウントを新設し、蔡党首を応援する国内外の人物に罵声を浴びせています。僕のTwitterのフォロワーの方からも、乱暴な中国語で罵られたという報告がありました。

 このような危険思想を持つ人物が数多く存在するのが、現在の中国です。僕は、彼らの悪意に満ちた言葉を見るたびに中共政府に失望し、対照的に日本や台湾の民主的な政治体制に憧れをつのらせています。

著者プロフィール

漫画家

孫向文

中華人民共和国浙江省杭州出身、漢族の31歳。20代半ばで中国の漫画賞を受賞し、プロ漫画家に。その傍ら、独学で日本語を学び、日本の某漫画誌の新人賞も受賞する。近著に『中国のもっとヤバい正体』(大洋図書)

(構成/亀谷哲弘)

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