後継社長の「新規事業」が失敗するワケ (2/3ページ)
長井:きっかけというよりは、時間が経つなかで少しずつ自分の等身大の実力を受け入れていったという感覚が強いですね。あえてひとつターニングポイントを挙げるとすれば、事業承継をして3年が過ぎたころ、妻から「あなたはいつもピリピリしている。だから私は心が休まらないし、幸せじゃない!」と言われたことです。
当時の私は、父から会社を継いで以来がむしゃらにがんばっていましたし、「がんばれば、答えは出るもの」だと思っていた。でも妻から突然そんなことを言われて、「がんばっても、答えが出ないこともある」と突きつけられたんです。自分としては「歩くべき道がなくなった」という感覚で、精神的にかなりつらかった。そうなると、すべてが悪い方向へ向かい出すといいますか、会社にも家庭にもどんどん居場所がなくなっていったんです。
会社へ行くとスタッフから「あの若い社長が調子に乗っている」と冷ややかな目で見られているように感じたり、妻とも家庭内別居のような状態になってしまったり……。なので、オフィスにあまり人のいない早朝や夕方に会社へ行き、その他の時間帯は喫茶店へ行って時間をつぶしたり、家で過ごしたりすることが多かったですね。
当時、私は30代前半だったのですが、初めて「自分はどうやって生きていったらいいのか」「働くとは、どういうことなのか」といったことを真剣に考えました。このことがきっかけで、自分が少しずつ変わっていき、色々なものを受け入れられるようになっていったんだと思います。
――そうした変化を積み重ね、集大成としてお父様との和解があったということでしょうか。和解する以前の長井さんは「父を越えたい」という思いが強かったとお話されていましたが。
長井:そうですね。そのことは常に頭の片隅にあったと思います。そして、先代と和解しないまま承継した事業を経営している状態はきわめて危険です。たとえば、よくあるのが「親父ができなかったことをやりたいから」といった動機で新規事業を始めてしまうことです。こういう動機で始めた事業なりサービスはたいてい失敗します。恥ずかしながら、私もかつてそういう失敗をしたことがありました。
もちろん、「後継者が新規事業をやる」ということが100パーセント悪いという話ではありません。