秋津壽男“どっち?”の健康学「薬物だけじゃない“依存症”の恐怖 ギャンブル依存は一種の鬱症状だった」

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秋津壽男“どっち?”の健康学「薬物だけじゃない“依存症”の恐怖 ギャンブル依存は一種の鬱症状だった」

 元プロ野球選手の清原和博氏の逮捕は、大きな衝撃を世間にもたらしました。あれほどのスーパースターが常習的に使用して、やがてやめられなくなる。依存症はかくも怖いものだと満天下に知らしめました。

 医学的にも、依存症の中でも清原容疑者が使用していたものは非常に恐ろしい薬物です。アルコールやニコチンなどと比べても中毒になるまでに1カ月もあれば十分です。アルコールやニコチンはすぐに中毒にはなりませんが、それほど覚醒剤の魔力は人間を短期間にむしばんでしまうのです。

 しかし考えてみますと、現代社会は「依存症社会」と言っても過言ではありません。覚醒剤のような違法なものもさることながら、アルコール、ニコチン、カフェイン、セックス、ギャンブル、買い物、インターネット、ゲーム、ホスト、過食など多岐にわたります。

 依存症には、中枢神経に作用して快感を得る「薬物依存」と、特定の行動で気分がよくなる「行動依存」に大別できます。いずれも快楽物質であるドーパミンの放出により刺激を得るため、依存症につながります。

 では、ここで質問です。はたしてギャンブル依存症とアルコール依存症を比べた時、治療が難しいのはどちらでしょう?

 まずギャンブル依存症の場合、始めた頃の勝利が強烈なインパクトを残すほどハマります。いわゆる「ビギナーズラック」です。これにより、人は他人とは違う優越感を味わえます。

 普通の人はダービーや有馬記念を楽しむだけで我慢できますが、中毒者になると、土曜の1レースから日曜の最終レースまで買い続け、平日は競輪や競艇に足を運ぶようになりますが、ここまでいくとかなりの重症と言っていいでしょう。

 実は、こうした行動パターンは、女性に多い「買い物依存症」にも当てはまります。

 奥さんや愛人に高級品をプレゼントすると、一種の満足感を得ますし、ブランド品の時計や高級車など「自分に贅沢」と思えるモノを買うとスキッとするのも自分が大きくなったような錯覚を覚えるからです。そんな錯覚が病みつきになると、買い物で得られる幸福感を追い求め、今日のランチ代がなくなろうとおかまいなしで買い物に依存しまくります。つまり、おじさんがギャンブルで一文なしになるのと、主婦が買い物で破産するのは、医学的に見て同じ構図なのです。

 セックス依存症も同様です。セックスで得られる快感には「肉体的快感」と、「俺はこんなにモテるんだ」という「精神的快感」が存在します。性的快感を得るだけなら自慰行為で十分ですが、金ができたら風俗に飛んでいく、そんな人がセックス中毒であり、理性と快楽とのバランスが取れない「一種の病気」です。

 ふだん、真面目なサラリーマンやきちんとした主婦であるべく「抑圧」がかかっていると、その抑圧を破り、理性のタガを外すことが快感につながります。「その快感がないと維持できない」人は依存症と見て間違いありませんが、行動依存であるギャンブルや買い物依存症は、脳にある幸せホルモンのセロトニンが足りないため、セロトニンを増やす抗鬱剤を飲むと治ります。

 一方、アルコールなどの薬物障害は、人体に直接的に危害を及ぼすという点で行動依存に比べ深刻です。最近はアルコールやニコチンの依存症を治療する薬も出てきていますが、薬物依存の場合、体に直接的な害を及ぼし、禁断症状も如実に現れるため、医学的には薬物依存のほうがやっかいなのです。いずれの依存症も究極的には「理性との戦い」です。生活に支障を来すほど依存してしまわぬよう自己管理だけでなく、妻や同僚など近しい人たちにも指摘してもらえるような人間関係を築くことが大事でしょう。

■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。

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