史上初のマイナス金利が2016年2月に開始!金利の基本とは?
『カール教授のビジネス集中講義 金融・ファイナンス』(平野敦士カール著、朝日新聞出版)の著者は、実務家、経営コンサルタント、著者、大学教授とさまざまな経験を経てきた人物。
本書は、「経営戦略」「ビジネスモデル」「マーケティング」に続くシリーズ第4弾で、「金融・ファイナンス」をテーマに設定しています。
と聞くだけで、「難しそう」という印象を持たれる方も少なくないはず。しかし著者は、そうではないと強調しています。
そればかりか、金融やファイナンスは、企業人としても個人としても、これからの時代にもっとも学ぶべき学問だと断言しているのです。
なぜなら、ファイナンスを学ぶことによって、お金を増やし、減らさないようにするための知恵が身につくから。
金融初心者でも理解できるようなアプローチが貫かれた本書から、最近の気になる話題である「マイナス金利」に焦点を当ててみたいと思います。
■金利は「お金のレンタル料」のこと
去る2016年2月、日本でも史上初となる「マイナス金利」が開始されました。そこでまずは、金利についての基本を知っておきたいところです。
著者の表現を借りるなら、金利とは、お金を貸し借りした際に発生する「レンタル料」のことなのだとか。
金利の利率は、ローンの種類によっても異なってきますし、同じローンでも「変動金利型」の場合には、借りる時期によって変動するのだそうです。
なぜ利率が異なるのかといえば、ひとつは、需要と供給の関係。
お金を借りる人が多い場合、金利を高くしたとしても借りる人がいるからこそ、金利は上がります。しかし借りたい人が少なかったとすると、金利は下がることになるわけです。
■なぜ消費者金融は金利が高いのか?
また、貸し手が元手をどのように調達したのかによっても、事情は変わってくるのだそうです。
たとえば銀行は、多くの人から集めた預金を原資にしてお金を貸しています。
ところがノンバンク(銀行のようにお金を預かることはできないものの、企業や個人への融資を手がける金融会社)やその代表的存在である消費者金融は、銀行からお金を借りて、いってみれば「また貸し」をしている立場。
それで、貸し出す際の金利も、銀行より高くなるわけです。
最終的に、世の中のさまざまな金利を決めるのは、民間の銀行同士がお金を貸し借りし合う短期金融市場のコールレート、つまり「政策金利」となります。
いうまでもなく、金利は経済を大きく左右する要素です。金利が高いとお金を借りる人が減るため、企業の設備投資、あるいは個人の住宅購入などが減り、経済が冷え込むわけです。
しかし金利が低すぎたとすると、貸し手にメリットはありません。また、借り手が増えて経済が活性化するかというと、必ずしもそうでもありません。
■マイナス金利だと現金保有が合理的
さて、ここでマイナス金利について。マイナス金利政策は、ヨーロッパ中央銀行(ECB)が2014年に実施したもの。
通常であれば民間銀行が中央銀行にお金を預ければ利息が得られるわけですが、マイナス金利の場合は、お金を預けた民間銀行側が逆にお金を徴収されることになります。
預金すると損をするので、銀行は余ったお金を企業や個人への貸し出しに回すものだと期待されていました。事実、一部の国では銀行の貸し出しが増加しましたが、効果は限定的だといいます。
マイナス金利だと、銀行に預金をするよりも、現金を保有するほうが合理的になります。とはいえ大量の現金の保有は危険であり、保管場所やセキュリティ、保険が必要になるはず。
■マイナス金利によって個人はお得?
では日本はどうかといえば、日銀の金融緩和も株や不動産が値上がりしただけ。つまり効果は上がっていないのです。
それどころか、借金をしたほうが得をするという、常識では考えられない自体を引き起こしているのだとか。
そんななか、日本の金融機関は政府の意向とは逆に、中小企業などリスクのある企業への融資に対して厳しくなると著者は読んでいます。
一方、マイナス金利によって個人は、住宅ローンを借りると国からの補助もあり、むしろ得をしてしまうという逆転現象も。しかし金利は安くても、価格そのものが上昇してしまっている可能性が高いので注意が必要。
今後は「いかに資産を増やすか」よりも、「いかに資産を守るか」という視点が重要になってくるといいます。
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他にも多くの人が知りたかったであろう問題をわかりやすく解説しているため、とても役に立つ内容。金融やファイナンスの基礎を固めたいという方には最適です。
(文/作家、書評家・印南敦史)
【参考】
※平野敦士カール(2016)『カール教授のビジネス集中講義 金融・ファイナンス』朝日新聞出版