どんなに給料が安くても手加減をしてはダメ!これはなぜなのか?
『NASAより宇宙に近い町工場』(植松努著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者は、紆余曲折を経たのち、北海道の小さな田舎町で宇宙開発に取り組んでいるという異例の人物です。
注目すべきは、本書においてはっきりと「宇宙開発はお金を稼ぐ対象ではない」と断言している点。
宇宙開発には、お金よりも大切な意味があるように思えるというのです。そして宇宙開発は、「あること」を実現するための手段だとも考えているのだとか。それは、「どうせ無理」という言葉を世の中からなくすこと。
多くの人があきらめてしまう夢を実現できれば、「どうせ無理」といわない人がひとりでも増えるのではないかという考え方です。
■手加減した働きかたをしてはいけない
そんな著者は、給料に関しても明確な考え方を持っています。
手加減をして給料分の仕事しかしていないと、本当に給料分の人間になってしまうというのです。
「俺は正しく評価されていないな、俺の給料は安いな、だから、このへんで手を抜いておこう」と考えるような人は、本当にその給料どおりの輝きしか持たなくなるというのです。
いいかたを変えれば、(給料をいくらもらっているかにかかわらず)仕事とは自分の人生の時間。
そうであるだけに、手加減した働きかたをしていると、手加減した生き方になってしまうということ。
しかしそれでは、人生の時間を無駄に浪費していることになってしまう。だからこそ、職場という環境を生かして、学ぶべきことを徹底的に学ぶことが大切だというのです。
■トレーニングをしながら給料をもらう
もしも職場で徹底的に学ぶことができれば、その結果として人はもっと輝きを放つようになるそうです。そればかりか、そのことを評価できる人と出会ったときに、その輝きは「本当の力」を持つようになるといいます。
とはいっても現実的に、「その職場では評価されない」というケースもあるでしょう。でも、それはトレーニングやランニングだと思えばいいのだと著者はいいます。
ランニングをしてもトレーニングをしても、誰かがお金をくれるわけではありません。だから、「トレーニングをしながら給料を少しもらえている」と考えたほうがいいということです。
「俺はこんなにがんばっているのに、あいつはたいして仕事をしていない。でも、あいつのほうが給料を多くもらっている。おもしろくない」
そう感じるようなことは、誰にでもあるかもしれません。しかし、そんなふうに考える必要はまったくないと著者。
なぜなら、人生において最後に勝つのは、どれだけ「やったか」だから。どれだけ「もらったか」ではないということです。
■前例がない世界に刺さることが大切!
だからこそ、給料に不満を抱きながら手加減をするのではなく、できるだけのことをすべき。
また、不景気で仕事が減ったとか、暇になったと嘆いてみたところで状況が好転するわけでもありません。
むしろ大切なのは、世界を取り囲んでいる不景気を打破するためには、いかにして暇を生かし、前例や規則のない分野に挑戦していくかということ。
ビジネスの現場匂いては、新しいアイデアなどが「前例がないから」という理由で却下されてしまうことは少なくありません。
けれども、前例がない、規則がない世界に刺さっていくことが、もしかしたらこの不況を打破するための大切な考え方になっていくかもしれない。
「そのために、不景気が暇をつくってくれていると考えればいい」という著者の意見は、とてもユニークです。しかし、そこに本質が見え隠れしているのもまた事実ではないでしょうか。
さらにいえば、そんな思いが著者の仕事に対するポテンシャルになっているということがはっきりとわかります。
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語り口は、きわめてソフト。しかし、その裏側には煮えたぎるような情熱があることがわかります。それが、本書の強い説得力につながっているのです。
また、ここで紹介したことがら以外にも、学びとなるトピックスが随所に盛り込まれているため、得るものは大きいはずです。
(文/作家、書評家・印南敦史)
【参考】
※植松努(2016)『NASAより宇宙に近い町工場』ディスカヴァー・トゥエンティワン