【永田町炎上】甘利氏を不起訴にした”ザル法”と検察の及び腰

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【永田町炎上】甘利氏を不起訴にした”ザル法”と検察の及び腰
【永田町炎上】甘利氏を不起訴にした”ザル法”と検察の及び腰

【朝倉秀雄の永田町炎上】

■有罪率99.98%の異常性の背景

 日本の刑事裁判の有罪率は99.98%にも及ぶ。一位の北朝鮮の100%に次ぐ世界第二位。裁判所まで共産党の支配下にある第三位の中国の98%よりも高いのだから異常な数字という他はない。米国の連邦裁判所は約75%〜約85%、ドイツは成人事件で約84.2%、英国は約80%、フランスは約83.1%だから、他の先進国に比べても突出していることがわかる。

 どうしてそんな数字になるのかと言えば、日本の刑事訴訟法が起訴するかしないかは検察官の「胸三寸にある」とする「起訴便宜主義」を採っているからだ。捜査の結果、「嫌疑なし」や「嫌疑不十分」と判断すれば、当然、不起訴処分(狭義の「不起訴」)にするが、それ以外に「嫌疑は十分だが、起訴するほどの犯罪ではない」と考え、「起訴猶予(広義の「不起訴」)」にすることもできる。

■不起訴率55%…有罪にする自信のない事件は”お目こぼし”

 日本の検事は自分の「手柄稼ぎ」のために、この制度を最大限に濫用し、有罪になる可能性が高い事件のみを起訴し、そうでない事件は不起訴や起訴猶予処分にしてしまっているからだ。日本の刑事事件の不起訴率はなんと55%にも達する。これはもし起訴していれば有罪になったかもしれない犯罪者を検事の恣意的な判断で「お目こぼし」してしまっていることを意味する。

 懸命に捜査してせっかく送検した事件の半分以上も不起訴にされたのでは警察もやる気をなくすだろう。警察と検察の不和の主な原因はこの異常に高い不起訴率にある。新聞記事を読むと、「不起訴処分」した旨の報道はあるが、理由については「不明」としていることが多いが、これは検察が本当のことを明かせないからだ。

■「出世」の妨げに成る政界捜査には及び腰

 とりわけ政界の実力者絡みの事件には及び腰だ。うちわを有権者に配ったとして法務大臣を更迭された松島みどりや政治資金の不透明な扱いをして同じく経産大臣を辞任に追い込まれた小渕優子などが不起訴処分になったのも「起訴便宜主義」の恩恵を受けたからだ。

 5月31日、報道各社は「斡旋利得処罰法」違反と政治資金規正法違反の疑いで告発されていた甘利明前経済再生相と元公設秘書2人に就ての立件を見送り、嫌疑不十分で不起訴としたことを一斉に報じた。

「斡旋利得処罰法」は犯罪構成要件として「権限に基づく影響力の行使」があったことを要求するが、甘利は経済再生担当大臣であってURに対し監督権限を持つ国土交通大臣ではなかったことや甘利が国会質問で取り上げることをほのめかして「UR側に圧力を加えようとした事実などはなかった」からとしている。これに早速「納得し難い結論だ」と噛みついたのが毎日新聞の社説である。

 毎日は「検察の見解に対し、斡旋利得処罰法の適用を限定的に解釈しすぎているとの意見が専門家から出ている」とも指摘しているが、筆者も全く同感だ。『週刊文春』(文藝春秋)も「特捜部は、当初から政権に弓を引くことに消極的でした。…今回はいかに不起訴にするかに向けて捜査を尽くしている感じでした。

 幹部もいかに立件が難しいか、珍しいほど丁寧に記者に説明していましたね」と言う記事を載せているが、おそらく検察は端から甘利本人の立件など全くやる気がなかったのであろう。そこには検察捜査をより恣意的にしている「検察首脳会議」の「行きすぎた政治的判断」があったと推測される。まさに「腐った検察」である。

 政治家・高給官僚などが絡む事件については、法務省や検察庁の幹部たちが今後の捜査方針などを決めるために一堂に会して開くのが「検察首脳会議」だ。会議では「出世」を邪魔されないためにひたすら官邸や政権与党の顔色を窺い、大物政治家にはできるだけ手を出したくない法務省側の、いわゆる「赤レンガ派(赤レンガ造りの法務省旧本館にちなむ)」と特捜検察側の「捜査現場派」との激論、網引きが行われる。甘利についても同様のことが行われたことは想像に難しくない。その結論が「不起訴」というわけだ。

■国会議員は「ザル法」しか作らない

「斡旋利得処罰法」は元建設大臣の中尾栄一の受託収賂事件をきっかけに平成12年11月19日に成立。翌13年に施行された。刑法は国会議員が口利きをして報酬を受け取ったとしても贈賄側から「請託(依頼)」を受け、他の公務員の職務上の不正行為を斡旋したことを立証しなければ刑事責任を問えなかった。

「斡旋利得処罰法」は「衆議院議員、参議院議員、地方公共団体の議員及び長(国会議員の公設・私設秘書を含む)が国もしくは地方公共団体(URのように国や地方公共団体が資本金の2分の1以上を出資している法人を含む)が締結する売買、賃借、その他の契約または特定の者に対する行政処分に関し、請託を受け、その権限に基づく影響力を行使して、公務員に職務上の行為をさせ、またはさせないように斡旋したことにつき、その報酬として財産上の利益を収受した時は3年以下の懲役に処する」としている。

 つまり公務員に「正当な行為」をさせても成立し、その点では政治の浄化は一歩前進したようにも見えるが、「権限に基づく影響力を行使して」という「抜け穴」のような高いハードルを用意したところに議員どもの狡猾さがある。甘利らもその「壁」に救われたわけだ。

 ちなみにこの法律によって起訴され、有罪になった国会議員や秘書は今までに一人もいない。これでは何のための法律かわからない。甘利を告発していた市民団体は6月3日、検察の判断を不服として検察審査会に審査を申し立てたというのだが、検察審査会にはくれぐれも国民が納得する判断をしてもらいたいものだ。

文・朝倉秀雄(あさくらひでお)
※ノンフィクション作家。元国会議員秘書。中央大学法学部卒業後、中央大学白門会司法会計研究所室員を経て国会議員政策秘書。衆参8名の国会議員を補佐し、資金管理団体の会計責任者として政治献金の管理にも携わる。現職を退いた現在も永田町との太いパイプを活かして、取材・執筆活動を行っている。著書に『国会議員とカネ』(宝島社)、『国会議員裏物語』『戦後総理の査定ファイル』『日本はアメリカとどう関わってきたか?』(以上、彩図社)など。最新刊『平成闇の権力 政財界事件簿』(イースト・プレス)が好評発売中。
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