週刊文春の青山繁晴トンデモ批判と周辺の間違った炎上劇|やまもといちろうコラム

山本一郎(やまもといちろう)です。よくネトウヨの親玉に間違えられますが、やめてください。
ところで、先日『週刊文春』(文藝春秋)が元共同通信の「文豪」青山繁晴(63)さんに関する醜聞記事を掲載したようで、物議を醸しています。
7月7日発売の『週刊文春』は、トップにでかでかとこの青山繁晴さんの問題を取り上げており、まあ確かに物々しい内容ではあります。いったい何が始まるんでしょうか。
ネタとしては、ペルーでの取材活動のうち一部の費用が取材経費として認められず、すったもんだの末、退職金から個人的に弁済をして沙汰止みになった逸話や、幾つかのネタで青山繁晴さんの記述がトンデモになった挙句についた仇名が「文豪」、すなわちガセネタを流す人という意味合いになったという内容です。
話としてはやや旧聞といいますか昔話に類するもので、そこまで批判するべきものなのかは読者によって見解は分かれると思います。通信社にも、青山繁晴さんよりももっと微妙な「飛ばし屋」と言われる人が混ざっているケースもあるので、まあ業界にはそういう人もいるだろうし、まともな人でも思い込みで事実関係を取り違えて飛ばしてしまう場合もあります。
また、青山繁晴さんも一連の経費の取り扱いで、通信社退職時点で揉めたという話はご自身でも披露しておられます。彼がテレビで何度も喋る官邸ネタがかなり誘導的で、そういう筋の悪い玉を撃つことがあったために、ある種の「安倍政権の御用」と揶揄する業界人も少なくないのも現状です。それでも、官邸に食い込んで情報を取ってきてテレビでしっかり話せる人は貴重ですから、その意味で彼もまたそういうポジションであることは衆知だったのではないかと思います。
この界隈の用語では、影響力要員とか観測要員という言い方をすることもありますが、良い意味でも悪い意味でも青山繁晴さんは言ったことをそのままテレビでそれっぽく喋ってくれるので「使いやすい存在であった」と言えましょう。
■過去を蒸し返されるのはむしろ勲章
しかしながら、そういう人はメディアに中立っぽい顔をして出て喋っているから価値があるのであって、よりによって「安倍晋三首相に直接口説かれた」体で参院選に自民比例から出馬してしまうとなると、話は変わります。単なるお座敷芸を披露して座布団に座っている人ではなくなるわけですから、当然撃ち落としにかかるのは仕方のないことといえます。
ましてや、安倍首相に言い含められての出馬であるという割に、発表から出馬までの時間が短すぎて、一部のネットユーザーや、時事を扱う情報番組で青山繁晴さんを親しんでいる人以外は知名度がそれほど高くありません。当然、撃ち落とすには手ごろな高度の候補者になってしまうのは、青山繁晴さんにとって運が悪かったと書くと青山繁晴さんの肩を持ちすぎでしょうか。
ただのイチ著名人、有識者、文化人が、具体的に政治の世界に入ろうとすると、この手のトラブルに見舞われやすいのも事実ですが、一方で、すでに終わった話を『週刊文春』に蒸し返されることは、むしろ勲章ともいえます。いうなれば、バッジをつけるための通過儀礼として、致命傷にならないレベルのスキャンダルのひとつも書いてもらうというのは、身から埃を叩く最良のチャンスであるともいえるわけです。なぜならば、キャンペーンでも張られない限り、その記事ひとつで落選してしまうようなら、当選してから同じようなことをやられて火達磨になることが目に見えているからです。
政治家としてやっていくからには、先例は初めから受けておいたほうが良いのは事実で、ましてや『週刊文春』や『週刊新潮』(新潮社)のようにモノの筋道が分かった雑誌に愛でてもらうことは大事なことだと感じます。
そして、こういうスキャンダルに見舞われたとき、本人がどう立ち振る舞うかというのは、非常に重要なポイントになります。下手をすると、記事として書かれた内容よりも、本人がどう釈明するのか、受け流そうとするのかをむしろ社会は見ているように思います。
■間違った炎上の方向性
そこで青山繁晴さんが打った手は、『週刊文春』に対して刑事告訴をすると発表することでした。常識的に考えれば、この程度の話を書かれてキレて刑事告訴というのはあんまり見たことがありません。事実関係を争うというものですらなく、書かれ方や評価の問題であって、それが公職選挙法に違反しているといわれれば厳密にはそのとおりなのでしょうが、ちょっと大人気ないんじゃないのと思うわけであります。青山繁晴さんにとって、よほど名誉を傷つけられたとか、立場を失ったように感じられたのでしょうか。
いろいろと毀誉褒貶のある青山繁晴さんですが、言論人として論陣を張ってきたことは立派なものも少なくなく、だからこそ多くの支援者が彼の周辺についているわけでして、そんなもので揺らぐものなのかなあ、書かれたけどすでに自身でも発表していることですし、「悪くかかれて困りましたね、ハハハ」ぐらいの余裕のある対応であったならば、なお彼の格も上がったのではないかなあと感じるのです。
それ以上に、彼の支持者が『週刊文春』に撃ち落とされにかかった件で怒っており、amazonレビューで怒り狂っているのが凄いわけです。まあ、好きなものを週刊誌にけなされて怒る気持ちは分かるんですが、ネット文脈として理解はできるものの品がないなあと思うわけなんですよね。
ある意味で、青山繁晴さんはこういう人を相手に言論活動をしていたのかと思わせてしまうような内容ばかりで、お前らもう少し落ち着けよと感じるわけであります。彼らが青山繁晴さんを擁護すればするほど、それを見た中立者は「なんだこれ」と思うわけでして、炎上のさせ方が間違っているなあと。
青山繁晴さんも『週刊文春』に対して告訴だと焚き付けるものだから、相乗効果でネットに現れたカルト集団みたいなノリになってしまうことを怖れるわけですが、それ以上に、青山繁晴さんは自民比例で当選できるのでしょうか。個人的には是非頑張って欲しいと思いますが、周囲にいる人が、変に足を引っ張ることのないように願う次第であります。
著者プロフィール

ブロガー/個人投資家
やまもといちろう
慶應義塾大学卒業。会社経営の傍ら、作家、ブロガーとしても活躍。著書に『ネット右翼の矛盾 憂国が招く「亡国」』(宝島社新書)など多数
公式サイト/やまもといちろうBLOG(ブログ)