【ツレが産後ウツになりまして】第5回:アタシにだけなつかない…妻が壊れる<前編> (2/3ページ)
だからこそ育児も頑張れる。
しかし妻の場合、その赤ちゃんから笑顔すらもらえない。何を糧に、頑張ればいいのか。
「アタシのこと、嫌いみたい」
力なく笑う妻に、かける声などなかった。
■「ねえ、コレ捨てていい?」
彼女が焦っているのには、もうひとつ理由があった。それはあと1週間もすれば、自分の両親が田舎に帰ってしまうからだ。
育児に関して、妻は母親を頼りきっていた。その育児の救世主が、もうすぐ帰ってしまう。授乳も泣き止ましも、上手くできないのに。ああ、あと1週間ですべてをマスターせねば。そんな恐怖に煽られていたのだろう。
ある日の午前中、わが子はまたギャン泣きを始めた。僕がすぐに抱っこし泣き止ませようとすると、妻は僕から赤ちゃんを奪い取り、こう叫んだ。
「アタシが寝かしつける!!」
もう何度目のチャレンジだろう。
妻に抱かれた赤ちゃんは、ママに抱っこされたことが気に食わないと言わんばかりに、あらん限りの声量をしぼり出し泣き叫んだ。それでも妻は立ったまま、赤ちゃんを小刻みに左右に揺らしていた。
30分が経ち、それでも泣き止まない。
見れば、妻も泣いていた。
1時間が経過し、それでも泣き止まない。赤ちゃんの泣き声は、もはや枯れ声になっていた。
意地になった妻は、それでも泣き止ましをやめようとしない。
まだ体重3キロとはいえ、1時間も抱けば、その細腕には重たかろう。腰にもくるだろう。しかし母親としての意地なのか、妻はやめない。
ふたりの戦いは遂に1時間半を超え、泣き疲れた赤ちゃんは、それでもか細い声でまだ泣いていた。
ママが、そんなに嫌なのか。その瞬間だった。真っ赤に泣きはらした目をこちらに向け、妻が言った。
「アタシやっぱり、赤ちゃんから嫌われてるみたい」
わが家は、6階建てマンションの6階に住んでいる。
「ねえさあ、もうこれ、ベランダから捨てていい?」
一滴一滴積もったストレスがコップから溢れ、遂に妻が壊れてしまった。