人間の怖さにゾクッとする、後味が悪い映画10選

学生の窓口

映画を見るといろいろな感情が呼び起こされます。なかには「怖い」「哀しい」など、後味悪い感情を残す作品もあります。しかしそれも作品に人の心を揺さぶる力があればこそ。後味の悪さは、言い換えれば深い感銘とも考えられます。というわけで、思わず人間って怖いなと思ってしまう映画を紹介してみたいと思います。

■人間の記憶の不確かさを思い知る「シャッター・アイランド」

マーティン・スコセッシ監督とレオナルド・ディカプリオのお馴染みタッグによる本格ミステリー作品。舞台は1954年、ボストン沖の孤島にあるアッシュクリフ精神病院。この犯罪者用精神病院で起きた失踪事件の捜査のために、連邦保安官のテディ・ダニエルズとチャック・オールが島を訪れます。捜査を進める二人ですが、テディは次々と不可解な出来事に直面、事件に深く入り込み過ぎるあまり強硬な言動を取るようになります。次第に、アッシュクリフ精神病院にある闇の解明に没頭するテディと周囲の間に温度差が生じるようになり、やがて優秀な保安官であるはずのテディ自身にある問題が明らかになっていきます。

巧妙なミステリー仕掛けで、衝撃の結末を演出する本作。見終わった後も、ついついあれやこれやとその結末について考えを巡らしてしまいます。犯罪者が収監されている孤島の精神病院という舞台の怖さもありますが、精神にダメージを受けた人間の常軌を逸した言動には、心も凍る恐ろしさおぼえます。現実を受け入れることができず、妄想にしがみついていたテディの哀しさが鑑賞後も尾を引きます。

監督:マーティン・スコセッシ
キャスト:レオナルド・ディカプリオ、マーク・ラファロ、ベン・キングズレー、ミシェル・ウィリアムズ、エミリー・モーティマー
原題:Shutter Island
製作年:2010年
製作国:アメリカ
上映時間:138分

■フランケンシュタインを生んだ監督はモンスター?「ゴッド・アンド・モンスター」

1931年に公開された映画「フランケンシュタイン」のジェームズ・ホエール監督の晩年を元に映画化。アカデミー賞で脚色賞を受賞するなど高評価を得ますが、その内容が地味なために日本では未公開になった作品。1930年代のハリウッド黄金期に「フランケンシュタイン」で成功を収めながら、謎の引退を遂げていたジェームズ・ホエール。日に日に蝕まれていく精神に、堪え忍ぶ日々を送っていたある日、庭の手入れに雇った庭師クレイトンと出会います。 クレイトンを気に入ったホエールは、絵のモデルになってほしいとクレイトンに申し出ます。クレイトンは絵のモデルを引き受け、二人は関係を深めていきますが、ホエールは絵のモデル以外の願望をクレイトンに抱いています。

あらすじを見ても、なんだか地味な内容の映画ではありますが、鑑賞後には穏やかな感動が残る良作です。元海兵隊の筋骨隆々な肉体をモデルに絵を描く元ホラー映画監督の老人、という設定、シーンがなんともおぞましいです。しかしこの負の印象は、この映画が仕掛けるトリックのひとつでしかありません。「モンスター」として描かれるホエールは「怖ろしい人間」そのもの、だからこそその先にあるエンディングには感動をおぼえます。

監督:ビル・コンドン
キャスト:イアン・マッケラン、ブレンダン・フレイザー、リン・レッドグレイブ、ロリータ・ダビドビッチ
原題:God and Monster
製作年:1998年
製作国:イギリス
上映時間:106年

■精神的にきついシチュエーションが大ヒット「SAW」

一時のシチュエーションスリラー映画台頭のきっかけを作ったエポックメイキングな作品です。その後シリーズ化され全8作製作されています。廃墟と化した所在も不明なバスルームが舞台。二人の面識のない男が、鎖で繋がれた状態で目覚めます。見覚えのないバスルームの対角に二人は離れて繋がれ、中央には死体が。 ゴードンとアダムは、犯人から「6時までに相手を殺すか、二人とも死ぬか」というゲームを強要されることに。犯人から与えられた数少ない手掛かりをもとに、二人は脱出をはかります。 一方では元刑事のタップが猟奇殺人犯ジグソウを追いはじめます。

低予算ならではのすばらしい発想が、その後ホラー映画の一大カテゴリーにまで成長するという稀なケースを現実にした「ソウ」シリーズ。閉鎖的でどこかバーチャルな空間は非常に現代的で、若者を中心に大ヒットしました。限られたヒント、アイテムを頼りに脱出を試みるというゲーム性の高い展開のおもしろさもありますが、精神的に追い込まれた人間の内面を鋭く描くドラマ性も充分な作品。殺人哲学を持った殺人鬼・ジグソウのストーリーはここからはじまります。

監督:ジェームズ・ワン
キャスト:ケイリー・エルウィズ、ダニー・グローバー、モニカ・ポッター、リー・ワネル
原題:Saw
製作年:2004年
製作国:アメリカ
上映時間:103分

■名作ながら後味悪さはナンバーワン?「セブン」

衝撃の結末が話題を呼んだサスペンススリラー映画の傑作。退職間近のベテラン刑事・サマセットは、ある日、血気盛んな若手刑事ミルズと殺人事件の現場に急行します。事件現場には、犯人による次なる殺人予告と思われるメッセージあった。次なる被害者の現場にもメッセージが残されており、犯人がキリスト教における「7つの大罪」をモチーフに連続殺人に及んでいることが判明する。さらに容疑者として浮上した人物が殺害され、事件は白紙に。サマセットはFBI資料の貸し出し記録から、新容疑者を特定し捜査を行うことに。

序盤からサスペンス映画らしい展開に釘付けとなる本作ですが、結末の衝撃度はなかなかのもの。バッドエンドという意味でいうと、他に類を見ないほどの後味の悪さを残してくれます。 音響に意図的なノイズを乗せたり、映像も鋭い編集がされたりしているなど、全体的にスタイリッシュな印象はありますが、キリスト教をモチーフにした殺人シーンはダークそのもの。 ショック耐性に自信のない方は、心して見るべし。

監督:デヴィッド・フィンチャー
キャスト:ブラッド・ピット、モーガン・フリーマン、グウィネス・パルトロー、リチャード・ラウンドトゥリー
原題:Seven(Se7en)
製作年:1995年
製作国:アメリカ
上映時間:126分

■こんな少女がいたら恐ろしい……「エスター」

猟奇的な人物像を描いたサスペンスホラー作品。R15指定。3人目の子どもを流産で失ったケイトとジョンの夫婦。悲しみに暮れていた二人は養子を迎えることにします。孤児院を訪れた二人は、ある少女と出会います。その少女エスターに強く惹かれたケイトとジョンは養子に迎え入れることに。 こうして、エスターを加えた家族の新生活がはじまります。エスターは、難聴の障害を持つ義妹のマックスとも仲良くなり、家族は上々のスタートを切るのですが……。

物静かでかわいらしいはずの女の子が、どんどん本性を現していく過程は本当にぞっとします。敏感な弟がエスターを敬遠するところから、徐々に母親もエスターの言動を不審がるようになり、その正体が明らかになっていきます。無防備な子どもを追い詰めていくエスターが怖くて仕方ありません。もし、終盤にホラーテイストに走らなかったら、見るに堪えないほど怖ろしい映画になっていたことでしょう。バトルになってからは、半分笑って見られますが、中盤までの展開はぞっとするものがあります。

監督:ジャウム・コレット=セラ
キャスト:ベラ・ファーミガ、ピーター・サースガード、イザベル・ファーマン、ジミー・ベネット
原題:Orphan
製作年:2009年
製作国:アメリカ
上映時間:123分

■自分の存在を見事に消した最凶のギャング「ユージュアル・サスペクツ」

コアなサスペンス映画ファンから絶対的支持を受ける傑作。アカデミー賞では脚本賞、助演男優賞を獲得。ある日の夜、カリフォルニア州のサン・ペドロ港に停泊中の船が大爆発を起こします。コカインの密輸を巡るマフィア同士の抗争が原因とされ、船内からは銃殺された死体が多数発見。関税局捜査官のクイヤンは、ただ一人無傷で生き残ったヴァーバル・キントを尋問することに。キントは事件前からの回想をはじめます。話は6週間前に遡り、ある強奪事件の容疑者5人が拘束されたところから。まもなく証拠不十分で釈放された5人は、新たに強盗事件を計画、見事に成功。その後さらに大きなヤマの話をマフィアから持ちかけられる。その話を持ちかけたマフィアの背後には伝説のギャング・カイザー・ソゼの存在が……。

冒頭の爆発事件から、回想に入り最終的に爆発事件当日まで戻ってくるという時間経過で描かれた作品。謎解き要素もふんだんに盛り込まれていますし、その演出は巧妙で何度も繰り返し見たくなる傑作サスペンス映画です。 カイザー・ソゼとはいったい誰なのか? この重要なクエスチョンを最後の最後まで引っ張り、ラストで鮮やかに披露してくれます。はじめて見る人は、ほとんどがその「種明かし」に度肝を抜かれることでしょう。カイザー・ソゼという男の完ぺきなまでの「存在」偽装に、最凶の人間を見た気分になること間違いなしです。

監督:ブライアン・シンガー
キャスト:ケヴィン・スペイシー、スティーブン・ボールドウィン、ガブリエル・バーン、チャズ・パルミンテリ、ケビン・ポラック
原題:The Usual Suspects
製作年:1995年
製作国:アメリカ
上映時間:105分

■人の過去は、一生消えることがない「ミスティック・リバー」

アカデミー賞6部門ノミネートされ、ショーン・ペンが主演男優賞、ティム・ロビンスが助演男優賞を獲得したクリント・イーストウッド監督によるサスペンスドラマ作品。ある日、幼馴染みの少年3人が遊んでいると、見知らぬ男が車で現われ1人の少年を連れ去ってしまいます。連れ去れた少年デイヴは性的暴行を受け、以来3人は離れていくことに。それから25年後、3人はある事件を契機に再会します。その事件とは、3人のうちの一人ジミーの娘が何者かによって殺害遺棄されるというもの。刑事になっていたショーンがこの事件を担当、悲しみに暮れるジミーをデイヴは励ますのですが……。

ホラー要素はなく、サスペンス的展開を前面に押し出すわけではありませんが、「ミスティック・リバー」ほど鑑賞後に何とも言えない後味の悪さをおぼえる作品も少ないのではないでしょうか。ただそれは目を背けることのできない人間の本質を深く描写しているからこそ。少年時代の心の傷が、大人になってもデイヴを苦しめていたこと。娘を亡くしたジミーの無念と悲しみ。それぞれの立場を俯瞰しながら、ストーリーは静かに展開します。ラスト、明暗を分けた三家族の対比が、鑑賞後いつまでも頭から離れないことになるでしょう。

監督:クリント・イーストウッド
キャスト:ショーン・ペン、ティム・ロビンス、ケビン・ベーコン、ローレンス・フィッシュバーン
原題:Mystic River
製作年:2003年
製作国:アメリカ
上映時間:138分

■名作に見るベスト・オブ・精神異常者「サイコ」

リメイク製作もされているサスペンススリラー映画の名作。アメリカ・アリゾナ州の小さな街にある不動産会社のOLをしているマリオン・クレーン。マリオンには、カリフォルニア州で雑貨屋を経営しているサム・ルーミスという婚約者がいます。しかし、サムは離婚した前妻に多額の慰謝料を支払っているため、マリオンとの結婚に踏みきれないでいます。
ある日、マリオンは会社の上司から売上金の4万ドルを銀行に運ぶ仕事を任されます。大金を目にし魔が差したマリオンは、そのお金を持ったまま車でサムの元へ。サムの元へ向かう途中、マリオンはベイツというモーテルに泊まります。ベイツ・モーテルで対応に出たのは青年ノーマン。ノーマンは母親の面倒をみながら一人でモーテルを切り盛りしているとのこと。マリオンはノーマンにすすめられるまま食事を取り、その後シャワーに。シャワーを浴びている時、マリオンは刃物で惨殺されてしまいます。

婚約者の金銭問題などありながらも、どこか脳天気な雰囲気のOLマリオン。その軽快な雰囲気が一転、バスルームが血まみれになってしまう急激な展開には唖然としてしまいます。それもわりと早い段階でメインキャストと思って見ていたマリオンが早々にストーリーから脱落。一体どうなるのかと、ハラハラしっぱなし。今でこそ、幼少期のトラウマを原因に精神異常を来たした犯罪者を題材にした作品は珍しくありませんが、「サイコ」は同カテゴリーの先駆けであり、かつ最高峰の作品といえるでしょう。

監督:アルフレッド・ヒッチコック
原作:ロバート・ブロック
キャスト:アンソニー・パーキンス、ベラ・マイルズ、ジョン・キャビン、マーティン・バルサム、ジョン・マッキンタイア
原題:Psycho
製作年:1960年
製作国:アメリカ
上映時間:109分

■どこまでもプロフェッショナルな凶悪犯「羊たちの沈黙」

アカデミー賞で主要5部門を受賞した傑作サスペンス映画。FBIの新米訓練生クラリス・スターリングは、優秀な能力を買われ、ある連続誘拐殺人事件の捜査に参加することに。そこでクラリスは、事件解決の鍵を握る人物との面会を指示される。その人物とは、収監中の凶悪犯・ハンニバル・レクター。レクターは元精神科医で、自らの患者を惨殺した罪で収監されています。それまで、捜査協力を拒んでいたレクターでしたが、なぜかクラリスに興味を示し、条件付きながら捜査協力をすることになります。

連続誘拐殺人事件を追うストーリーですが、「羊たちの沈黙」の見所は事件そのもの以外のところにあるように思います。バッファロー・ビル事件解決を手助けするレクターは、一見非の打ち所のない優等生クラリスの「弱さ」を見抜き、彼女の過去にまで踏み込んでいきます。隔離された場所にいながら、巧みな交渉術で収監所の移動を実現し、さらに看守の隙をついた脱獄までやりおおせます。実在の連続殺人犯をモデルにしているという、レクター博士の完璧すぎる「凶悪犯」ぶりに背筋が凍る一本です。

監督:ジョナサン・デミ
原作:トマス・ハリス
キャスト:ジョディ・フォスター、アンソニー・ホプキンス、スコット・グレン、ケイシー・レモンズ
原題:The Silence of the Lambs
製作年:1991年
製作国:アメリカ
上映時間:118分

■歯止めが効かなくなった狂気「シャイニング」

スティーブン・キングの同名小説をスタンリー・キューブリックが映画化。名作中の名作ですが、原作から掛け離れているとのことで、当時スティーブン・キングはこの映画を批判していたというエピソードも。小説家のジャック・トランスは、アメリカ・コロラド州の山岳地帯にあるホテルの冬期休業中の管理人職にありつき家族でホテルを訪れます。妻ウェンディーと一人息子ダニーと三人、雪解けの観光シーズンまで外界との接触を断たれるこのホテルで過ごすことになります。しかし、このホテルには、孤独に心を蝕まれた管理人が家族を惨殺し、自らも命を絶ったという忌まわしい過去が……。

ホラー映画の名作として記憶される作品ですが、ホラー云々では済まされない怖ろしさがあるように思います。ストレスが極限に達した人間がどれほど危険な存在となり得るか。些細な誤解から人がお互いを信用できなくなるその過程。制御不能に陥っていくジャックの狂気を見事に演じ切ったジャック・ニコルソンの快演は、夢に出てきそうなくらい怖いです。子どもは見られないかもしれませんね。

監督:スタンリー・キューブリック
原作:スティーブン・キング
キャスト:ジャック・ニコルソン、シェリー・デュバル、ダニー・ロイド、スキャットマン・クローザース、バリー・ネルソン
原題:The Shining
製作年:1980年
製作国:アメリカ
上映時間:119分

すべてがハッピーエンドではない、それもまた映画のおもしろさと言えるのではないでしょうか。今回紹介した作品はどれも、人間の怖さや哀しさが感じられる作品です。それもこれらの作品が、深く人間を観察し描写しているからこそ。ぜひ気になる作品があれば触れてみてください。

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