理解困難なのに面白い?話題沸騰中の『シン・ゴジラ』を徹底分析

デイリーニュースオンライン

「シン・ゴジラ音楽集2016」より
「シン・ゴジラ音楽集2016」より

『シン・ゴジラ』見てきました! クオリティ自体の高さもさることながら、圧倒的な情報の洪水で、二度、三度と見ても楽しめる映画だと思います。以下、ネタバレありのレビューとなります。

■情報の洪水による面白さの創出

 本作は表現方法がまずスゴイ作品でして、政治家、官僚、科学者が専門用語を混じえながら延々と早口で喋りまくります。さらに場所や肩書きを示すテロップがバリバリ入りまくり、視聴者の情報吸収力を無視して、情報が洪水のように溢れ返ります。

 これは普通に考えると当然悪手です。普通の作品はまず分かりやすさを大切にしますし、キャラクターたちが難しい会話をした後は、「つまり~~なんだな?」といった分かりやすいまとめを挟むなどの工夫をするものです。

 しかし、本作はそういった手加減をまるで無視して突き進み、たまに「つまり」が入っても、「つまり」以下の内容までが難しかったりします。明らかに理解させる気のない内容や、聞き取らせる気のない早口の箇所もあります。

 というわけで、普通に考えると悪手なのですが、この作品ではそれが独自のグルーヴと化して成立しています。専門用語の羅列がリアリティを生み出し、一つ一つのセリフの内容は理解困難であっても、「それっぽい空気」は確かに醸成されているのです。

 そしてなんだかんだ大人であれば、理解困難といえど、頑張れば理解可能な範疇の台詞の応酬ではあります。ここからは筆者の感覚的な仮説になるのですが、こういった理解困難さと、お構いなしのスピード感は、視聴者側の脳味噌が強制的にクロックアップされると思うのです。

 すなわち、高速で流れる理解困難(だけどギリギリ理解可能)な情報過多に晒されることで、それを順次理解してやろうと私たちの脳味噌が通常以上に活発に働く。その脳味噌の超過した働きが「面白い」という感覚を生み出しているのではないかと考えます。「面白い」という感覚は煎じ詰めるとよく分からないんですが、こういった脳みその挙動も、おそらく「面白さ」を感じさせる要素なのではあるまいか。

 ともあれ、こういった形で「面白さ」を生み出し、作品として成立させている。『新世紀エヴァンゲリオン』でも行われていた手法だと思いますが、普通に考えると悪手のはずのこれを、表現手段の一つ、監督の独自の個性、武器として確立させているのは、やはりスゴイと言わざるをえない。

 でも、この手法、脳みそをフル稼働させても付いていけない人も当然いるはずで、筆者も中学生の時分であれば無理だったと思うし、文化的背景の異なる外国人にもキツイと思います。そういった人たちがこの手法をどう評価するのかは興味深いところです。

■対ゴジラ日本国総力戦

 ストーリー面で特筆すべきは、対ゴジラ戦が個人のスタンドプレーではなく、組織の力で行われていることです。

 確かに長谷川博己(39)演じる主人公、矢口蘭堂(内閣官房副長官)は全編通じてすごく頑張ってはいるのですが、具体的に何を頑張ったかというと組織内・組織間の調整であり、加えて言うとしてもせいぜい士気の鼓舞です。「主人公が組織調整を頑張る映画」と言語化すると何だかすごいですよね。

 対ゴジラ戦のメインとなるのは政治家、官僚、自衛隊であり、自衛隊も前線で戦う兵士だけでなく、会議室から出ることのない将官クラスの存在が描かれています。

 この作品では、各人の能力は玉石混交ながらも概ね優秀であり、一人一人が作戦遂行において、確かな役割を担っていることが描かれます。お役所仕事ゆえに、法律的制約ゆえに、動きの鈍るところはあれど、それでもともかく、国という巨大なエネルギーを皆の力で動かしているのです。

 この作品を見ていて思うのは、一人一人の優秀さ、一つ一つのインフラが集まって事を成しているけれども、一人の優秀さだけでは何もできないということです。先に述べた通り、優秀な個体として描かれているはずの主人公も、その優秀さの発露は主に組織調整に限られ、彼一人では何もできません。

 彼の下に集められた対策チームも、一人一人は斯界の天才(異端児)であろうけれど、やはり一人で何かを成せる訳では全くなく、仲間と知恵を出し合い、ディスカッションを経て、敵(ゴジラ)の情報、対策法を深めて行くのです。

 自衛隊も、ただゴジラに向けて火器をぶっ放すだけではありません。予め様々な状況を想定し、現実的な攻撃計画を検討した上で動いています。将官クラスが行政と意思疎通し、組織をまとめ、それより下位の人たちが作戦を検討し、プランを構築した上で、ようやく前線部隊がゴジラとドンパチできるわけです。

 一人一人が優秀でも、一人の力はとても小さく、しかし、小さな力が一つ一つ機能し、連動していくことで、国という巨大なエネルギーが動き出し、大怪獣に立ち向かえる。本作は過剰な調査と取材により、組織の動きにリアリティを持たせ、組織間の連関を大きなうねりとして描いているのです。

 この映画に描かれる日本という組織の巨大な動き。それを一つの怪獣のようなものだと考えると、本作はゴジラ対日本という、ある意味、巨大怪獣同士の戦いと言えるのかもしれません。

著者プロフィール

作家

架神恭介

広島県出身。早稲田大学第一文学部卒業。『戦闘破壊学園ダンゲロス』で第3回講談社BOX新人賞を受賞し、小説家デビュー。漫画原作や動画制作、パンクロックなど多岐に活動。近著に『ダンゲロス1969』(Kindle)

「理解困難なのに面白い?話題沸騰中の『シン・ゴジラ』を徹底分析」のページです。デイリーニュースオンラインは、シン・ゴジラ長谷川博己映画連載などの最新ニュースを毎日配信しています。
ページの先頭へ戻る

人気キーワード一覧