【ツレが産後ウツになりまして】第9回:妻の涙をぬぐう、赤ちゃんの小さな手 (2/3ページ)

It Mama

その光景は、この世の幸せを象徴するかのように、まぶしく光り輝いて見えた。しかし、そうではない“親子の散歩”があることを、子ができて初めて知った。

現実、妻は目の下にクマをつくりながら泣き叫ぶ赤ちゃんとともに、行くあてもなくただ歩を進める、それはもはや散歩ではなく徘徊だ。

そして「行くところがない」というセリフは、「行く場所がない」という物理的な理由にくわえ、育児ストレスによる行き詰まりを妻は無意識に示唆していたのかもしれない。

午後1時に出かけた妻は、結局帰ってきたのが午後の2時半だった。この日はベビーカーの揺れでは寝ずに、90分も泣いた体力疲れで寝たのだという。90分もの時間泣き続けるわが子をベビーカーに乗せながら、世間の目に晒されるように町を歩くのは、一体妻にどのような感情を呼び覚ますのだろうか。

「大丈夫?」と声をかけるも、返事がなかった。

遅い昼飯の準備にかかった妻だが、今は子どものアレルギーのため、卵・小麦粉・大豆・イモ類・乳製品の除去食の味気ないもの。焼いておいた干物をチンすると、それだけをおかずに白飯をかきこんでいた。

生気のない目から表情は読み取れず、「ごちそうさま」と誰に言うでもなくぼそっとつぶやくと、前の晩も3時間も寝ていない妻は、赤ちゃんの傍らに、倒れこむように横になった。

■妻の涙をぬぐう、赤ちゃんの小さな手

ふたりが寝たのを確認した僕は自室にこもり、原稿仕事に没頭していた。3時間ほど経っただろうか、リビングから物音がしたので思わず駆け込んだ。

赤ちゃんがまた泣き始めたのかもしれない。するとそこにあったのは……妻と赤ちゃんがキャッキャいいながらふざけている姿だった。

妻は「かわいい、赤ちゃんかわいい」といい、アトピーで腫れたほっぺをぷにぷにと触っていた。そして、なぜか泣いていた。

この涙の意味は、今となってもわからない。

産まれて3ヶ月が経ち、やっと表情が出てきた赤ちゃんはニコニコと笑いながら、母親の涙をオモチャと思ったのか不憫に感じたのか、おぼつかない手元を揺らしながら必死に拭おうとしているように、僕には見えた。

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