武雄市の幼稚園がニセ科学”EM菌”をプールに投入の是非|やまもといちろうコラム (2/2ページ)

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■実際には作用しないEM菌の存在意義

 一方で、千代田区のEM菌投入の件もそうですが、環境を浄化するという大義名分に基づいて、根拠もない施策を善意でやってしまう事案が絶えないのも事実です。私もひとりの千代田区民として「馬鹿じゃねえの」と思わずにはいられないのですが、汚れた水に泥をぶち込んで水が綺麗になるはずもなく、結局は泥が水底に溜まってかき出し浚渫をしなければならなくなります。まあ、単純に汚いところにゴミを捨てているようなものですね。

首都東京を襲うEM菌
NPO法人 日本橋川・神田川に清流をよみがえらせる会

 おそらくは、目の前に汚いものがあるものを取り除こうという意志に、みんなで綺麗にしようという旗頭がつくけど、実際にはゴミを掃除したり、水質を野良のNPOや婦人会が綺麗にすることなど技術的にも予算的にもできないので、魔法のように解決してくれることを望んでEM菌のようなニセ科学に頼る、という構図があるのでしょう。

 もしも清流を本当にこれらの川で蘇らせたいのだとなるならば、上流の水質汚染の根源を絶ち、人工の中洲や浮島を作ってバクテリアを育て、川底にあるヘドロをかき出すか、酸素を送り込んで微生物に分解してもらうしかありません。また、川のコンクリート護岸をやめて土泥を復活させたりする必要はあるのでしょうが、それらの消化能力、環境浄化能力以上に問題物質が流れ込んでしまっては清流などできませんし、BODとCODでは問題の解決の道筋が本来は違います。BOD(生物が酸素を必要とする量)を確保できても、いろんな物質が汚染の原因になっている以上、いくら分解する微生物に酸素を供給しても、原油由来の汚染物質や重金属系を分解するのは不可能です。

 また、酸素を送り出して、川そのものが持つ浄化能力を高めることは、半面で、酸素を使って微生物が汚染物質を分解する過程で大変な汚臭を放つことになります。周辺住民がアンモニア臭で困惑するほど、大変な問題を起こすことがあるわけですよ。この程度の話は、清流をよみがえらせる以前に、科学的知識の基本として知っておかなければならないことで、もしも本当にEM泥団子が環境に効き、環境を浄化しているのであれば、竹橋や九段下などは大変なニオイで首都高が止まるぐらいの勢いでヤバイことになるはずなのです。

 だからこそ、みんなが環境に興味を持ち、なんかいいことした感じになれる程度で、実際には何の環境にも作用しないEM菌ぐらいが無害でいいんだという議論は、確かに周辺の自治体担当者あたりからは聞こえてきます。でも、そんな活動に従事させられる人たちの労力を馬鹿にする話ですし、せめて意味のある活動をしてもらいたいと考えるわけです。みんなでホースもって川いって川底に人力ポンプで酸素送って異臭が出てみんな鼻が曲がるたぐいの。

 まあ、こういう都会に住む人間のエゴも巻き込んで、ただただ水質改善をがんばる東京都下水道局は偉いという結論になってしまうわけですが、武雄市の事例は相変わらずニセ科学に傾倒して、意味があるのかどうかも分からない人が善意でニセ科学を広めてしまう事例を思い出させてくれました。その意味でも、アレな感じの自治体として著名な武雄市の存在意義は高いかもしれません。ニセ科学特区みたいなものを作っていただき、そこの自治体の中だけでありとあらゆるニセ科学が蠱毒のように煮詰められていって、政府債務を救済する埋蔵金が出てきたりすることを期待してやみません。

著者プロフィール

やまもといちろうのジャーナル放談

ブロガー/個人投資家

やまもといちろう

慶應義塾大学卒業。会社経営の傍ら、作家、ブロガーとしても活躍。著書に『ネット右翼の矛盾 憂国が招く「亡国」』(宝島社新書)など多数

公式サイト/やまもといちろうBLOG(ブログ)

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