田中角栄 日本が酔いしれた親分力(23)事件後でも揺るがない姿勢 (2/2ページ)
田中角栄は、ロッキード事件後も、なりふりかまわず派閥の膨張策をとりつづけた。84年(昭和59年)には、120人にもなる巨大派閥となった。
ある時、田中派幹部の田村元は、田中事務所をぶらりと訪ねた。江崎真澄、竹下登の姿もあった。田中は、昼間だというのにすでにオールドパーの水割りを上機嫌で飲んでいた。
いろいろな話をした後、田村は思いきって田中に諫言した。
「角さん、今日はちょっと言いたいことがあるんですが」
「なんだい、ゲンさん」
「言いにくいんですが、これ以上、あんまり派閥の膨張策はとらないほうがいいんじゃないですか」
田中の顔色が、さっと変わった。
「なぜだ」
「まあ、何といったって、あなたは刑事被告人だ。どんどん派閥を膨張させて、仮に“闇将軍”と言われても、裁判所は、悪意こそ持て好意を持つはずがない。政界で隠然たる力を持っているから判決を軽くする、なんてことはありえないと思う。だから、あまり、それはしない方がいいんじゃないですか」
田中は、鬼のような形相になった。
「何ィ!」
田中は、わなわなと怒り震える手でマドロスパイプの絵の書いてあるマッチ箱を握りしめ、それを田村に向けて投げつけた。マッチ箱は、田村の額を直撃した。そのはずみで、中身のマッチがバラバラに飛び散った。田村は、さすがに頭に血がのぼった。
〈この野郎! 無礼なことしやがって〉
田村は、マッチを1本ずつ丹念に拾い、箱に詰め、お返しとばかりに、田中の額めがけて思い切り投げつけた。マッチ箱は見事に田中の額に命中した。
田村は、興奮冷めやらぬ口調で言った。
「帰るッ!」
ドアを蹴破るような勢いで、部屋から飛び出した。
作家:大下英治