TVの過剰演出はアリなのか?「マスコミによる権利侵害」と思った時の対処法
弁護士の仕事をしていると、報道機関から取材を受けたり、出演依頼をされたりすることがあります。
幸いにして、いままで意に沿わない編集をされたことはありませんが、実際に放映・掲載されたものを見ると、「こういうふうに編集されるんだ」と思うことがあります。
放送時間・紙幅や報道したい内容との関係もあるので、ある程度は仕方のないことです。
報道機関には、報道したい内容との関係で編集や演出をすることが認められていますが、それを超えて、“やらせ”、事実と異なる報道、人権侵害に当たる演出を行うことはできません。
最近でも、“障害を持った少年に富士登山をさせた企画”が批判されていましたよね。
そこで、今回は、許される報道・編集・演出と、そうでないものとの違いや、実際にコメントしたことや事実と異なる内容の放送された時、「人権侵害では?」と思う演出をされた時にはどうしたらよいかについて、解説したいと思います。
■マスコミの編集は自由にいじっていいのか?マスコミには報道・放送内容の自由や編集権があるとされています。
それは、マスコミが広く世の中の事実を国民に知らせ、国民の“知る権利”に役に立つために与えられている特権です。
そのため、国民の“知る権利”に奉仕するどころか有害ともなり得る、国民に誤解を与えるような編集・演出、事実と異なる報道は認められないことになります。
また、報道・編集・演出によって他者の権利を侵害することも原則として許されません。
上記の最近の例でいえば、同意なく画像加工をして編集を行ったことにより、当該出演者の社会的評判を低下させるおそれがあったケースは、バラエティ番組という特質を考慮しても許されないかなと思います。(実際に損害が発生すれば賠償の対象にもなり得るでしょう。)
■もしマスコミから「過剰な反応」を強要されたら?
(1)放送倫理・番組向上機構(BPO)への相談
BPOは、放送における言論・表現の自由を確保しつつ、視聴者の基本的人権を擁護するため、放送への苦情や放送倫理の問題に対応する、第三者の機関です。
放送内容に対する意見(苦情)のほか、一定の要件の下で人権侵害の申立てを行うことが可能です。
(2)訂正放送請求
テレビ局など(放送事業者)が真実でない事項の放送をしたという理由によって権利の侵害を受けた本人またはその直接関係人は、放送のあった日から3ヶ月以内に放送したテレビ局などに訂正放送を行うよう求めることができます(放送法第九条1項)。
ただし、テレビ局などが訂正放送をしなかったことに不服のある人に、裁判を通じて訂正放送を行うよう求める請求権はないとされています。
(3)民事訴訟の提起
権利侵害を受けた場合は、テレビ局を相手に民事訴訟を提起することができます。
もっとも、訴訟には時間がかかりますし、権利侵害のあったこと及び損害を請求する側で立証しなければなりません。
マスコミに真実と異なる報道をされたり、権利侵害されたりすることを防ぐ一番の方法は、取材や出演依頼に応じないことです。“お涙頂戴の親子での過剰な演出”などを、例え間接的にもお願いされた際は、よく考えたほうがよさそうです。
特に、プロではなく一般市民の方であれば、いったんは依頼を受けてしまっても、自分の意に沿わない行為や演出がある場合は、その後の協力を拒否してもよいでしょうね。
(木川 雅博)
【参考・画像】
※ 放送法 第九条1項
※ BPO
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