金正恩氏の「まごころ薬品」よりヤミの薬を選ぶ北朝鮮庶民 (2/2ページ)

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しかし、経営するのは当局ではなく、トンジュ(金主)と呼ばれる新興富裕層、すなわち民間薬局というわけだ。

正恩氏に「薬物常用者」の噂

元々、北朝鮮で薬局は市の人民委員会(市役所)保険課の薬品管理所しか経営できなかった。2012年頃から個人の参入が認められるようになったが、薬剤師の免許が必要だった。薬剤師は、薬品の専門知識は持っているが、資金力や商売のノウハウを持ち合わせていなかった。結果、薬品を確保できず経営が行き詰まってしまった。

薬剤師たちの競争力の無さに気づいた当局は、トンジュにも薬局経営を認める。情報筋は「当局は市場の機能を抑制しながら、薬剤師に薬局を経営させて上納金を得ようとしたが、うまくいかず、限界を感じたようだ」と述べる。

民間薬局は、薬剤師の資格がなくても経営できるが、その代わりに薬品管理所の品質監督を受け、利益の3割を上納することが条件だ。また、外国製の医薬品の取り扱いも認めており、消費者からは「値段は少し高いが、品数が豊富で、市場と違ってニセモノを掴まされる心配がない」と好評だという。

当局が民間薬局を認めた背景には、市場の利権を国の手に取り戻そうとする意図があるようだ。市場の商人がいくら儲かっても、そこから得られる収入には限界がある。しかし、当局とトンジュが協業する形にすると、上納金という形の「税収」が得られるメリットがあるのだ。

ただし、こうした薬局は数少ない。ほとんどの庶民たちは従来通り、市場で医薬品を入手する。咸鏡北道(ハムギョンブクト)の内部情報筋によると、薬剤師が薬局を開業するケースがあるにはあるが、今も市場や個人宅で薬品を購入するのが一般的だという。そして、一応は存在する国営薬局は、非常に不人気だという。

いずれにせよ、北朝鮮が誇る無償医療制度は既に崩壊している。極端に薬品が不足していた時代の弊害なのか、いまだに風邪薬代わりに覚せい剤を使用する庶民もいる。そこそこの幹部の中にも覚せい剤の中毒者が存在することから、違法薬物を厳格に取り締まる方針を出している金正恩氏にまで、薬物中毒者という正体不明の噂まで出ている。

金正恩氏は「まごころ薬品」より民間薬局に象徴される、いわば「規制緩和」にもっと注力すべきだろう。

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