「人民のかたき、金正恩を倒せ!」北朝鮮国内でビラ・落書きの発見相次ぐ (2/2ページ)
幹部らも悪口
一方、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の清津(チョンジン)市にある水南(スナム)市場では、体制非難の落書きが見つかった。今月11日の午前5時ごろ、パトロールを行なっていた清津市保安署(警察署)の夜間巡察隊が、コンクリートの壁に「人民のかたき、金正恩を処断せよ」と書かれているのを発見したのだ。
保安署は、落書き事件が市民に知れ渡らないように、一帯を通行止めにするなどの措置を取ったが、市内全域に口コミであっという間に広まってしまった。どうやら保安員(警察官)が発見する前に、付近を通りかかった複数の商人がこの落書きを目撃し、周囲の人々に触れ回ったようだ。
北朝鮮では一般的に、このような落書きやビラを目撃しても、ほとんどの人が通報しない。「金正恩氏に対する批判は重大犯罪なので、下手に通報などすれば自分が疑われ、最悪の場合は首が飛びかねない」と思うからだ。「触らぬ最高指導者に祟りなし」というわけで、スルーするのである。
ところが、同市内の浦港(ポハン)区域在住のある住民は、特定人物を落書きの犯人として通報した。治安当局に忠誠心を示したかったのかどうかはわからないが、その通報者が酷い目に遭ってしまう。通報者が輸城川(スソンチョン)の堤防を歩いていたところ、正体不明の集団に襲撃され、顔面、頭部の裂傷など重傷を負わされたのだ。
犯人の素性を推測する手掛かりは何もないが、経緯から見て、体制に不満を持つ人々による「報復」であるように見受けられる。
金正恩氏を揶揄するのは庶民らだけではない。幹部でさえ外国を一度も訪問せず、首脳会談すらできていない金正恩氏を揶揄することもあるという。
筆者も中朝国境で両国を往来する北朝鮮ビジネスマンから、何度も金正恩氏を非難する言葉や悪口を聞いたことがある。もちろん、そうした言葉は国外にいてこそ口に出せるのであり、北朝鮮国内ではそうはいかない。
それでも、北朝鮮内部から漏れ伝わってくる金正恩批判の度合いは日増しに強まっている。それこそが、北朝鮮の庶民らの「本音」なのだ。