北朝鮮、被災地訪問を禁止した訳

デイリーNKジャパン

北朝鮮、被災地訪問を禁止した訳

昨年8月末の台風10号(ライオンロック)によって、北朝鮮北東部は甚大な被害を受けた。こうした中、北朝鮮当局は水害被災地へ外部から訪問することを厳しく統制していると、咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えてきた。

被災地は中国との国境沿いにある。訪問するには従来から「旅行証」(通行許可証)が必要だが、当局は「親戚のところに行く」という理由であっても旅行証を発行せず、訪問は事実上できなくなってしまった。

被災者向けの物資を積んだトラックも、厳しい管理の元に置かれている。被災者の入居した復興住宅に近づくことは許されず、遠く離れた場所での荷降ろしを強いられている。現場では、保安員(警察官)が常駐しドライバーを監視し続けているというのだ。

北朝鮮国営メディアが復興住宅を自画自賛していることもあり、住宅を背景に記念撮影をしようとするドライバーもいる。しかし、携帯電話を取り出そうものなら保安員が飛んできて写真を削除させるほどの厳戒ぶりだ。

当局がここまで神経質になっている理由について、情報筋は次のように語った。

「被災者向けの住宅が素晴らしいと宣伝したが、事実とは異なることがバレるのを恐れているのだろう」

被災者向けの復興住宅は手抜き工事だらけで、入居者の間ではシックハウス症候群が続発していることを、デイリーNKなど様々なメディアが報じている。

こうした情報は国外からの短波ラジオなどを通じて北朝鮮内部の人々に伝えられ、さらに内部情報が国外に流出する。当局は被災地への訪問を禁止することで、海外メディアへ現地情報が流出入することをブロックしようとしているようだ。

厳しい統制は地域住民にも及び、当局に対して次のような不満の声が聞かれるという。

「住宅建設を期日までに無条件で終えよという、お上(金正恩党委員長)の指示が、手抜き工事を生んだ」

「指示貫徹のための速度戦で、やっつけ工事をしたせいなのに、なんでその責任を地元民に押し付けるんだ」

「家は建てても、食糧問題は後回しか」

また、地域住民は寒さに震えながら外部からやってきた人員を監視している保安員を見て「スパイは捕まえられないくせして、庶民はよく捕まえるもんだ」と嘲笑している。

手抜き工事は、北朝鮮の長年の悪弊の一つだ。当局は、何らかの記念日に合わせて工事を完成させ、成果として誇示するために、無理な工程で工事を行わせる。そのため、安全対策や決められた手順を無視した工事が行われるのだ。

金正恩氏肝いり建設事業の一つで、昨年5月に完成した「白頭山英雄青年3号発電所」は、工期に無理やり間に合わせるため、冬季にコンクリートの打設を行なった。そのせいで、ダムの堤防がもろくなり、一部で崩壊を起こしてしまった。

また1989年には金日成主席の生誕記念日である4月15日に、無理やり間に合わせるために建設が進められていた高速道路の橋脚が崩落。500人以上が死亡する大惨事が発生している。

北朝鮮当局は、プロパガンダに利用するためだけに、全国でハリボテの山を築き続けているのだ。

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