アルコール依存症の救世主なるか?飲む前に飲む薬で依存症を取り除いていく「シンクレアメソッド」法(英研究)

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アルコール依存症の救世主なるか?飲む前に飲む薬で依存症を取り除いていく「シンクレアメソッド」法(英研究)
アルコール依存症の救世主なるか?飲む前に飲む薬で依存症を取り除いていく「シンクレアメソッド」法(英研究)

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 イギリス、ロンドンにあるコントラル・クリニックのドクター・ジョシュ・ベルコヴィッツは、アルコール依存症に関し、まだあまり知られていない治療法を紹介した。

 「シンクレアメソッド」と名づけられたこのプログラムは、英国国立臨床研究所(NICE)も推奨する、麻薬拮抗剤のナルトレキソンを使う。アルコールを飲む1時間前にこの薬を服用すると、際限もなく飲みたくなる欲求を抑えることができるのだという。

 これは、脳内のアルコールエンドルフィンの放出をブロックし、中毒性を減らす。完全に酒を断ちたくない依存症患者には朗報といえよう。

・シンクレアメソッド治療法とは?
 アルコール依存症患者は、完全に酒を断って立ち直ろうとする過程で、たいてい挫折に苦しむ。しかし、あまり知られていないがこの治療法なら、改善が見込める場合もあるという。ほどほどに酒を飲みながら依存症を治療していく、一見不可能に思える方法だ。

 シンクレアメソッドと言われるこの治療法は、1970年代に考案され、麻薬拮抗剤と自制心と酒を逆説的にミックスさせて、中毒性をコントロールする新たな方法だ。

 驚くことに、この治療法だと80%近くの割合で成功するらしい。アルコールにとりつかれた酒飲みイギリス人にとって朗報となりえるのだろうか?

 お酒をやめようという意思の力だけに頼らずに、ナルトレキソンという薬を日々摂取して脳を再トレーニングするという概念は興味深い。

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・お酒をほどほどに飲みながら依存を取り除いていく
 英国国立臨床研究所(NICE)が推奨するこの薬は、アルコールを飲みたい気分にさせるエンドルフィン(脳内麻薬)の放出を促す受容器をブロックすることができ、時間をかけて、依存行為を安全で効果的にやめられるようにしていくことができる。

 売りのひとつは、アルコール中毒者更生会のような団体でよく行われているオール・オア・ナッシング的治療法とは違う、もうひとつの斬新な解決法だ。

 基本的に、患者は大好きなビールやワイン、スピリッツなど酒を飲むことができるが、あくまでもほどほどにだ。

 「これまでの更生プログラムは、ほとんど聖書的な古臭いやり方をベースにしていて、アルコールを悪魔とみなしているのです」ドクター・ジョシュ・ベルコヴィッツは言う。

 「ある意味、それは正しい。間違った利用の仕方をすれば、アルコールは悪魔になりえます。しかし、シンクレアメソッドなら、依存症の人たちを社会的に孤立させることなく、集会に出ることに恐怖を抱かせることもありません。完全に酒断ちするよりも現実的だし、患者自身もこうした選択の自由を望んでいます」

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 患者にとってもそのほうがいいに決まっている。この治療法は、一滴も酒を飲まないか、浴びるように飲むかの間の中間を選べるわけだから。・まずは5日間のデトックスから
 はじめは、5日間診療所に通ってデトックス(解毒)をする。患者はマルチビタミンやアミノ酸の入った点滴で栄養的にきちんと整った体を作る。

 「この最初の準備によって、アルコール中毒者が体内に蓄積させたダメージを修復するのです。彼らはたいてい栄養失調で不健康です。きちんと食事をしないで、始終アルコールでカロリーを補おうとするからです。ですから今後の治療のために、点滴によって強制的に体をベストコンディションにしておくのです。それから適切な食事習慣もつけてもらいます」

 それから、日々の少量の酒と共にナルトレキソンを投与する。

 「患者には、毎日10日間酒を飲みながら、処方された薬を飲むようアドバイスします。たとえ少量のアルコールであっても、患者の心と体は、アルコール消費とナルトレキソンの効果の関係をよく理解するのです。その後、患者は酒を飲む1時間前にこの薬を服用するようにします」

 「シンクレアメソッドの奨励者は、これをエンドルフィンの絶滅と呼んでいますが、正確にはそれは違う。実際にはエンドルフィンをとても低いレベルに落とすことです。万人に100%効くわけではありませんが、大多数の依存者には非常に効果的です」

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 確かに妙薬ではない。

 サッカー選手のケニー・サンソンは去年、この薬による治療を直接体験した。100万ポンド(役1億4千万円)のマンションに住むほど稼いでいたサンソンは、イギリスで二番目にキャップ数(試合数)の多いフルバックだったが、アルコール依存症に陥り、そのキャリアのすべてを台無しにしてしまった。空のワインボトルをかかえて、公園のベンチに座っている姿を写真に撮られたこともある。

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 サンソンは、最初シンクレアメソッドと相性が合っていたが、結局、薬による自己管理に失敗し、アルコールに走ってしまった。・お酒をやめるという心構えができていないと失敗する
 酒浸り生活で有名な二流の有名人のように、酒をやめる心構えができないうちに、この治療法を試そうとすると失敗する。

 「この治療には、患者の意思の力とエネルギーが相当必要だ。患者自身が本気で依存症から抜け出したいと望まなくてはならない。本気で立ち向かうのなら、薬が元の自分に戻る機会を与えてくれるというだけの話なのだ」

 言うまでもなく、需要は差し迫っている。特に、2014年にイギリスでアルコールが原因で死亡した人の数が8697人もいたのは驚異的な数字だからだ。

 アルコールは、口や喉、胃、肝臓、乳房のガンや高血圧、肝硬変、うつなど、60以上の疾患の原因になることがある。

 さらに、公共サービスにかかる経済的負担は、210憶ポンド(約3兆円)と巨額だ。35憶ポンド(4900億円)は国民健康保険制度(NHS)、110憶ポンド(1兆5500億円)はアルコールがらみの犯罪、73憶ポンド(1兆円)は失業手当に当てられている。・アルコール依存症の原因は複雑。必ずしも万人に効果はない
 しかし、業界の評者はシンクレアメソッドについて、諸手を挙げて歓迎しているわけではない。アルコール依存症の原因は複雑だからだ。

 アルコール・コンサーンの広報は、こうした活動は興味深いものだが、アルコール問題を治療するのに薬の摂取だけでいいとは、臨床医たちは率先して言わないだろうと言っている。

 「酒を飲み過ぎる理由は人さまざまで、薬理学の介入は決して人のサポートの代わりにはなりえない 過度な飲酒が人生をひっくり返してしまうことを人々に理解させるのは、やはり人の力なのだ」

イギリスにおけるアルコール依存症治療の実状

NHSは、イギリスの成人男性の9%、成人女性の4%がアルコール依存症だと見積もっている。イギリスでは、依存症患者のわずか1%しか治療しようとしない。

2013~14年の治療患者数は、2012~13年の10万9863人から5%(5237人)増えた。

2012年には、アルコール依存症治療薬の処方箋発行数は17万8247件。

2013~14年、イギリスでシンクレアメソッドを新たに始めた患者は8万929人。

via:contralclinicswimpoleaestheticsdailymailなど/ translated konohazuku / edited by parumo



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