「人間くささのある教育の模様が描けると思った」 塾業界を舞台にした『みかづき』について森絵都さんに聞く (3/4ページ)

新刊JP

吹っ切って、海外に行かせちゃえ!って(笑)

――その妻であり、二人目の主人公である千明はかなり強烈なキャラクターです。

森:経営者の論理で全てを考えていく人ですね。ただ、吾郎が子どもに教えることに情熱を傾ける性格でしたから、千明の性格は経営者らしくならざるをえなかった部分があります。

――本作の最終章となる8章の主人公は吾郎と千明の孫である一郎です。

森:先ほども言いましたけど、もともと一郎を主人公にしようとは考えていなかったんです。3人の娘のうちの一人が物語を引き継いでいくのかなとおぼろげながら思っていたのですが、それとは別の形になりましたね。

―― 一郎と吾郎は血がつながっていないけれど、吾郎の面影を受け継いでいるのは一郎ですよね。一郎の母親である長女の蕗子は大島家の中では唯一、学校の教員になるなど独特な存在です。

森:蕗子は千明の娘で、最初に吾郎と出会います。この小説は教育をテーマにしてはいるけれど、「教育とはこうだ!」という話から始まるのではなく、子どもとの出会いから火が灯ってほしいと思っていました。その吾郎に火を灯したのがこの蕗子なんですよね。

実は書き始めた当初は、蕗子が千葉進塾を継ぐのだろうと思っていました。ただ、物語が進む中で、蕗子の母親に対する複雑な感情から公教育の道へ歩ませることにしたんです。

――キャラクター作りをする中で、一番大事にしたことはなんですか?

森:一人ひとりに秘めているものがあってほしかったんです。家族にも隠している、誰にも言えない秘めた部分ですね。蕗子ならば、お父さんの吾郎と血がつながっていないということに傷を持っていたり。そうした、家族として一緒にいながら秘めているものをそれぞれに与えたかったんです。

でも、その一方で、大島家は家族ですから、吾郎のどの部分をどの子どもが受け継いでいくかというということも考えながら書いていました。

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