やくみつるの「シネマ小言主義」 これがホラー映画なら評価プラス! 『王様のためのホログラム』

週刊実話

やくみつるの「シネマ小言主義」 これがホラー映画なら評価プラス! 『王様のためのホログラム』

 イスラム圏の中でも特に戒律が厳しい国・サウジアラビア。我々の想像を超える異文化の地に、この映画の主人公は3D映像(ホログラム)による会議システムのセールスマンとして派遣されます。
 アメリカの常識が一切、通じない国の人々に翻弄されながら、人生における大切なことを見つけるというストーリーなんですが、もし、サウジアラビアでこの映画が公開されようものなら、物議を醸すことは想像に難くない。
 はっきり言って、この主人公、少なくとも3回は死刑になるくらいのことをやらかしてます。たとえば、イスラム教の聖地・メッカにうっかり入ってしまったあげくに、ジョークでCIAだと言っちゃうとか、内緒で禁断の酒を飲んで酔いつぶれたり…と、見ていて「これは新しいタイプのホラーなのか?」と思うくらい、ハラハラしました。

 ウィキペディアによると、この国の女性が不倫すると、絞首刑になりかねないとか。女性は近親者の付き添いなしでの外出も禁止です。
 男女の出会いのハードルが極端に高い国で、この短期間に次から次へとアバンチュールが起きるのは、まさに西側諸国が夢想するエキゾチックなおとぎ話かと。

 一方、現実世界はというと、イラン、イラク、スーダン、ソマリア、リビア、シリア、イエメンのイスラム7カ国の難民・移民は米国への入国が一時停止。そして'11年3月以降にこの7カ国に渡航した人は、ビザを申請して認められなければ入国できなくなりました。
 実は私、このうち6カ国に渡航したことがあります。もちろん観光で。今のところ渡米する予定はないですが、確実に拒否られそうです。…というか、この正月休みには、リアルに「強制送還」の憂き目に会いました。
 渡航先は赤道ギニア。いつもお願いしている辺境地専門の旅行代理店の手違いとかで、空港まで着いたものの、入国できずツアー一行6名はそのまま戻されました。12日間の予定がまさかの0泊4日。「強制送還」はさすがに初めてです。
 予定では、帰りのトランジットでこの映画にも出てくるサウジアラビアのジェッダに立ち寄るはずでした。本作を見ていて、ますます行ってみたくなりましたね。

 この映画でも、主人公は取引先の受付の女性に何度も「不在です」と嘘をつかれますが、今回のすったもんだでも、現地の人には「引き継ぎ」とか「確認」の発想がまったくないのか、みんながその場しのぎのことを言って埒があきませんでした。
 主人公が経験する苦悩を、図らずも体験してしまった自分です。

画像提供元:(C)2016 HOLOGRAM FOR THE KING LTD. ALL RIGHTS RESERVED.

■『王様のためのホログラム』監督/トム・ティクヴァ 出演/トム・ハンクス、アレクサンダー・ブラック、サリター・チョウドリー、シセ・バベット・クヌッセン、ベン・ウィショー、トム・スケリット 配給/ポニーキャニオン TOHOシネマズ シャンテ他にて全国公開中。
 大手自転車メーカーの取締役だったアラン・クレイ(トム・ハンクス)は、業績悪化により解任。車も家も妻も失うが、何とかIT企業に再就職する。早速、出張を言い渡されたアランは、サウジアラビアにやって来る。しかし、到着した現地のオフィスは砂漠に立てられたテントで、Wi-Fiもつながらない。そんな中、娘の養育費を稼ぐためにも、国王に「3Dホログラム」を売り込もうとするが…。

やくみつる:漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。『情報ライブ ミヤネ屋」(日本テレビ系)、『みんなのニュース』(フジテレビ系)レギュラー出演中。

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