ASKAは偉大なる前衛アーティスト!『700番』を正しく読み解くための手引き

いまだスッキリしないASKA騒動
2014年に覚せい剤取締法違反で逮捕されて以来、なにかと騒動を起こし続けているミュージシャンのASKA。とくに昨年末の再逮捕から不起訴釈放へと至る経緯をめぐっては、ワイドショーなどでも多く取り上げられ波紋を呼んだ。
今年の2月、3月に立て続けに出版された『700番』シリーズ(扶桑社)は、そうした一連の経緯について、ASKA自身がその真相を告白したというものである。
本には騒動の核心部分についてがこと細かに記されており、それはそれでとても興味深い…のだが、しかし、読み終えてもやはりまだ腑に落ちない点が残る。言ってしまえば、ASKAが書いたことが現実なのかどうか、いまだ確たる証拠が得れずモヤモヤしてしまうのだ。おそらく、今なおこうしたモヤモヤを抱えている方は少なくないのではないだろうか。
現実? 妄想? 二者択一の罠一方、ASKAの書いたことが客観的な現実に対応しているかどうかなんて、実はどうでもいいことなのではないか、と指摘する人もいる。作家の石丸元章である。
石丸は東京近郊の精神医療センターにASKAと同時期に入院し、ASKAとともに二ヶ月間の入院生活を送っていた。4月3日発売の石丸の新刊『覚醒剤と妄想 ASKAの見た悪夢』(コア新書)には、入院当時のASKAの様子が克明に描写されており、ASKAの「常人離れ」した性質の一端がうかがい知れる内容となっているのだが、しかし、石丸はそうした性質をアーティストとしての才気と評しており、またその後にブログで発表される『700番』などについても、“盗聴や盗撮が事実かどうかといった問題に囚われるべきではなく、そもそも文章作品として傑出しているという点や、あの立場で『700番』のようなスキャンダラスな作品を執筆したということの前衛性にこそ注視すべきだ”と論じている。
なるほど、石丸にならい、事実かどうかといったことから離れて『700番』シリーズを再読してみると、たしかに『700番』がひとつの表現物として実に魅力に富んでいることが分かる。そもそも、ASKAは文章が格別にうまいのだ。ゴシップ的な関心を除いても、十分に読まされる内容なのである。
さらに石丸は同書で、ASKAの発言を妄想だと断定して嗤う社会こそが問題だと指摘し、もしASKAが妄想者だとしたら我々もまた同じように妄想者なのだ、とする独自の妄想論を展開している。
もしかしたら、われわれは「妄想か現実か」といったことに過剰にこだわりすぎていたのかもしれない。皆さんもそうした野暮な視点は一度捨てて、ASKAという当代稀有とも言える“アーティストらしいアーティスト”の「作品」として、『700番』シリーズを読み直してみてはいかがだろうか。
(文/佐々武史)
おすすめ書籍:
『700番』第一巻(ASKA著/扶桑社) http://books.rakuten.co.jp/rb/14697856/
『700番』第二巻|第三巻(ASKA著/扶桑社) http://books.rakuten.co.jp/rb/14651817/
書誌詳細:
http://www.fusosha.co.jp/Books/search_list/?author_id=2582
参考文献:
『覚醒剤と妄想 ASKAの見た悪夢』
(石丸元章著/コア新書)
http://books.rakuten.co.jp/rb/14797252/
書誌詳細:
http://bit.ly/2nCj0Gr