WELQ問題の真相を読み解く(2)「買収の経緯に関して極めて不透明」~山本一郎×古田大輔×三上洋特別鼎談 (1/3ページ)

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WELQ問題の真相を読み解く(2)「買収の経緯に関して極めて不透明」
WELQ問題の真相を読み解く(2)「買収の経緯に関して極めて不透明」

山本)さて、これからさらに細かく、じゃあ何が第三者委員会の報告書で語られて、語られなかったのかというお話をしたいと思います。

■論点1)
キュレーションメディアは儲かるビジネスだったのか?(高すぎる目標、増えるメディア&協業先)

これは報告書では語りきれなかったところと思っています。おそらく、関係者へのヒヤリングだけでは解き明かせない部分でしょう。また私自身、今回の調査報告書を読むなかでいろんな方の意見を聞きました。僕ら投資家としての目線、ウェブメディアを見たり運用したり、実際に寄稿させてもらっている側面はあるんですけれども、やっぱり投資家として、もしくは事業を把握しようとする人間として、上場企業がどういう形でこれをやろうとしたのか。

その点については、今回の調査報告書では見事に欠落しています。ただ、とはいえ、状況に関してはかなりつまびらかにされている部分はあり、今回それを中心にお話をしていきたいと思います。

■「永久ベンチャー」の標榜と挫折

何度も書かれている、「永久ベンチャー」というDeNA側の強い思いです。これは、いろんな遠因があるんですけれども、遠因に関わるものに関しては、DeNAの事業の推移でしかこの調査報告書では語られていません。

なぜそこをあえて強調するかというと、創業者である南場智子さんが、いろんな個人の事情その他、さまざまないきさつがあって一回経営を退かれるんですよね。その間を受け持っていたのが守安社長だったんです。今回、ほとんどの事例において、「守安氏が」「守安氏が」「守安氏が」という形で繰り返し指摘されていて、こいつクズだよ、くらいの感じで書かれていたんです。

彼が何を言うかというと、我々は「永久ベンチャー」である、という標語です。では、この「永久ベンチャー」っていう標語は何なのかというと、組織が大きくなっていくDeNAにおいて、新しい事業をやっていくにあたって官僚的すぎるのではないかということに対する危機感である、というのが表向きの説明です。

裏向きが何なのかというのは、ここに出ています。過去最大の売上高、営業利益を計上したところにあるんですけれども、DeNAの経営陣の間ではモバイルゲーム事業に替わって、今後の収益の柱となる事業を見つけ出そう、という思いが強くなっていったというのがあります。これが何なのかというと、稼ぎ頭であったモバイルゲーム事業の失速です。

ゲームを展開していた時代にDeNAは急成長するんですけれども、ここの利益率をカバーできる新しい事業を構築しない限り、DeNAは成長を継続できないという、強い危機感があったということになります。さらに、ここで問題になるのが、DeNAのモバゲー事業は、実は南場さんや今の経営陣が考えだした事業じゃないんです。その当時、コンテンツ事業を展開していた人が、ガラケー向けに提供していた一サービスがヒットしたという形です。なので、彼女たちがいちばん最初にやった「ビッターズ」というモバイルオークションの事業とかは、事実上そこまで成功していないわけです。

実は、彼女たちが本当の創業の意思をもってやってきた本体の事業というのは、失敗に終わっているんだけども、新しい事業を採択することによってゲーム事業が成立したので、その爆発的な利益率によってDeNAは成長したということをもって、「永久ベンチャー」と言っている、ということが一つにあります。

じゃあそのゲーム事業にかわり、SEOでメディアを育てるという事業や、漫画配信、人工知能、自動運転システムといった、ゲームで稼いだお金を次の事業に投資するという戦略に転換します。とりわけメディア事業については、うまくいけば利益率が高いはずだ!という事で守安さんはのめり込んでいくさままでは報告書で解説されています。これは、記事を量産し、一定数トラフィックを確保した段階で、記事の質を徐々に上げていく戦略というのが一つ。もう一つが、画像を低コストで利用してファッションブランドの記事を作成するキュレーションによっても、ビジネスとして成立するための十分な投資を有する記事を作成するのは可能だと判断した、ということなんです。

要は他から持ってきても、いわゆる普通のファッション誌にひけをとらない記事を量産できるはずだという前提です。この判断があったので、事業が成長する、スケールすると判断したように報告書では読めます。MERYであり、その他DeNAパレット各媒体に対して、投資を促進させていくぞということで、方針としてプラットフォーム志向で低品質な記事でも需要を喚起できるようなPVをSEOで確保できれば、メディア事業は成長できるはずだと。つまりここで語られているのは、収益性を確保するためには、低品質な記事を量産するというだけではだめで、それに対してSEOを効かせるというもう一つの柱があってはじめて、高収益化が実現できるはずだと彼らは考えていたということが、読み解けます。単にクソ記事を量産するのではなく、メディアを育てるためにSEOに有利な運営をする、そのためにはクソ記事が量産される必要があった、というロジックです。

ただ、途中からクラウドソーシング会社への依存度がものすごく高くなっていくんです。これにおいては、WELQは医療情報、ヘルスケアを扱うサイトだったため、法的問題がないか慎重な確認を当初やっていたんですけれども、これがだんだん出来なくなっていきます。なぜなら、記事の量が多いから。で、要は「このままでは儲からないビジネスだったんじゃないか」という話が途中から出てくるんです。

MERYの月次のPVの伸びなんですけれども、確かに伸びてはいるんですけれども、2016年第3四半期にようやく黒転したという内容になっています。ところが、2015年10月6日の経営会議において、会社の時価総額を1兆円とし、そのうち2000億円相当をキュレーション事業のみで売上を上げるぞと宣言しているんですよね。このペースを達成するためには、具体的にどのくらいのスピードで伸びていかなくてはいけないかというと、大体MERYが23~24倍という計算です。常識的に考えて、まともな投資をやって堅調に伸ばそうというよりは、クソ記事量産によるSEOドリブンでイノベーションだ、というラリった感じになったのかもしれません。

ただ調査報告書では、各メディアについての収支はごそっと抜いてあります。収支に関する情報ってとても大事だと思うんですけれども、報告書では載ってません。逆に読み解くならば、正直、MERY以外は赤字なんです。MERYに関しても2016年の3月に黒字化したとはありますが、収益化の規模については一切書かれていないんです。その上で、何でそういう利益構造でDeNAは前のめりになったのかということなんですけれども、事業計画を策定するにあたっては、MERYは他のDeNAパレットサイトとは別に、独自の編集方針を貫いていたと書いてあるんです。

これがなんなのかというと、報告書ではA氏、B氏と分けて書かれてありますけれども、A氏とされている中川さんとB氏とされている村田さんでは、ファンクションが違うんです。

中川さんっていうのは、MERYをひっさげて、ペロリという会社をDeNAを売却するにあたって、自分が強いのはSEOであると言い切っています。それに対して、村田さんというのは、事業拡大をしていくために、このメソッドを使って、組織化をしていきます、複数のメディアを運営していきますというところのファンクションなんですね。で、DeNAは、キュレーション事業は広告収入が伸びてきたことから、2016年の第三四半期、3月には黒字に転じると書いてあるんです。

2、3年後の成長軸として収益をあげることを期待されていました。村田さんは、守安氏が決定した中長期目標に対して、すべての事業計画を回して責任を負ってきました。さらに守安氏が、時価総額をベースに、中期経営交渉を打ち出してきたのは、時価総額は長期的な成長が期待できる指標であるからと。これは何なのかというと、事業計画を立てるうえで成長ラインを引きやすいんでしょう。

デイリーアクティブユーザーとかPVとか広告単価っていうのがあるんですけれども、この規模でサイトが伸びていって、複数メディアがあれば、これくらいのネイティブアドは取れるはずだという皮算用があったと思います。そういう成長への期待感を強く、彼ら自身が、組織を成長へ追い込んでいたということなのかと思うんですよね。でも実際、広告の売り上げの伸びとメディアの成長って、ちょっとベクトルが違うじゃないですか。

古田))いやもう、全然違いますね。PVがあったからネイティブアドが入るわけじゃないですし。PVってあの、バナー広告を貼り付けたものであれば掛け算ですが、ネイティブアドってそういうものではないので、そこが違うし。

まさにこれは(会見の)会場で僕が質問したポイントです。調査報告書によると時価総額に基づいて線をひいて、計算をして、守安さんがこの数字でやれと命令するわけですよね。それに対して、現場の村田マリさんが、ちょっとそれは挑戦というか高い目標ですねというように、やんわりと反対しようとしたけれど、守安さんが最終的に決定したということは会場でも語られたんです。

僕はこの高い目標を、コンプライアンスを守りながら本当に出来ると思っていたんですかっていう質問をしたんです。そうしたら守安さんは、当時は可能だと思っていた、と言ったんですけれども、先ほど山本さんが指摘されたように、他のところから画像を持ってくる手法であるとか、どう考えてもこのコンテンツ量を生み出そうと思ったら、クラウドソーシングに頼まないといけない。そうすると、プロ責法を言い訳にできない。となると、本当に、そのときに、法律をきちんと守りながら出来るという確信を持っていたとは思えないんですね。

山本)ちょっと先ほどの話に戻るんですけれども、プロ責法で守られないのではないかということは、DeNA社内の法務から指摘されていましたと。指摘されている内容としては、クラウドワークス会社に記事のディレクションも含めて発注をかけていますと。その発注している内容に関して、クラウドワークスさんを中心に、彼ら自身が外部ディレクターという形で人を立てているんですけれども、入稿に関しては当初DeNAは必ず検証しているんですよね。DeNAも、当初は真面目にやろうとしていたのでしょう。

ただし、外部業者に発注し、納品物を検収して自社サイトに掲載しているということは、記事自体を普通に外部委託で発注していたとしても、プロ責法(の範囲)ではないことになります。そして、DeNAは法務もそれは分かっていた。指摘もした。DeNA法務は仕事をしていたことになります。プロ責法で守られない記事を自分たちで書いているにも関わらず、内容について吟味しない記事というのは当然問題になります。著作権法についても外部からの指摘があるなかで、何故彼らが事業を止められなかったのかっていうのは、これは本当に事業判断上のミスですね、とDeNA自体が会見で認めておられます。

じゃあ法務のジャッジや組織としての歯止めを誰が押し切ったのかということについては、報告書にはあまりきちんと書いていないんです。合議のようだ、というところまでは書いてあるんですよね。報告書が、いったい誰を守ろうとしたのかわからないんですけれど。僕も、関わり合いのある事業者から画像が借りパク状態になっている問題については、当時直接村田さんに言いました。でも、村田さんに言っても止まらなかった。じゃあその上については報告書に書いていないので、ここはブラックボックスだと。上がどこまで問題を認識していたのか、という話なんですよね。

で、売り上げ予測の線表をひいて、記事をこのくらい書いたらこのくらい売上が上がるはずだ、だから時価総額1兆円だっていうことにのめり込むにしては、あまりにも雑なんですよね。メディアをちょっとやっていれば、じゃあ編集部員を2倍にすれば、2倍売上があがるかっていうと、それはなかなか無理でしょう。むしろ少ない人数でもバズれば人はこれだけ来るっていうことを期待したとしても、バズり続けるための体制って大変だということをわかっていれば、こういう線表の引き方はしないんですよね。

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