ジャーナリスト・森健が突きとめた、名経営者・小倉昌男の「素顔」と「失敗」(前) (3/3ページ)

新刊JP

普通の親の目で考えると、ある程度財産があれば、自分の子どもたちにお金を残すのではないかと思うんです。でも、彼の足跡を辿ると、まったくそうではない。逆に私財の多くであった46億円を投じて財団をつくってしまうくらいですから。

――この本の中で取材を続ける森さんの文章から、ジャーナリストとしての楽しさみたいなものを感じました。

森:これはおっしゃる通りです。楽しかったですね。それはなぜかというと、取材を進めると、持っている資料とはまったく違う話ばかりが出てくるんです。「えっ!?それは本当ですか?」と驚くことが連続して起きました。

取材には、自分が考えていた通りの答えが出てくる楽しさと、まったく良い意味で予想が裏切られる楽しさがあります。でも、「これは読者に伝えたい」と思うことは、後者のほうが多いんです。誰も知らない、ウェブにも雑誌にも本にも書かれていない話に出会い、それを解き明かしていく。取材者冥利に尽きる面白さがありますね。

――ここに書かれていることは、スキャンダル的な側面もあると思います。執筆する際にかなり気を付けたのではないですか?

森:考え方によりますが、もし小倉さんが生きていたらそうと感じた部分もあるかもしれません。しかし、自分はそう考えてはいませんでした。第一に、そういう目線で取材をしていませんでしたし、むしろ彼の私的な生活で隠されていた部分には、現代の家族が多く共有する重要な課題を抱えていたと思いました。もう一つ言うなら、小倉さんはもう亡くなってから10年以上経っています。その意味で、ファクトを報じることは名経営者の歴史として重要だと思いました。

気を付けた部分は、彼の人物像をいかに正しく伝えるかというところです。取材を進める中で、これまで彼の正しい人間像が伝わっていなかったのでは、という印象を強く受けたのですが、なぜかというと彼がそのイメージを出さなかったからなんです。

――では、取材を通して森さんの中でも小倉昌男のイメージは変わっていった。

森:変わりました。私自身、一度小倉さんにお会いしたことがあります。確かに話し方はクレバーで論理的、そして非常に明晰な方でした。ただ、「国と闘う」など世間で言われているような威圧感のある方では決してなくて、ぼそぼそと話すような、普段は碁を打っていそうな落ち着きのある方だったんです。

また、彼が自分でつづったエッセイや社内報のまとめを読むと「自分は気が弱い」と書かれている。「それはなぜだろう」という疑問が、今回の取材を通して氷解しました。確かに「気が弱い」小倉昌男の方が正しかったんです。

後編へ続く

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