吉田豪インタビュー企画:北条かや「コンプレックスがあるので勘違いブスがうらやましい」 (2) (3/3ページ)

デイリーニュースオンライン

■本気で勘違いブスな人がうらやましい

──それ以外にもコンプレックスは相当あるわけですよね。

北条 顔とかですかね。顔、身体は全部コンプレックスなので、勘違いブスみたいな人を見るとうらやましくて。

──それ、ナチュラルに悪口ですよ!

北条 え? 違いますよ!

──本人は一切気づいてないでしょうけどね。「私はうらやましいって言ってるじゃないですか!」って(笑)。

北条 たとえば自分とまったく同じ容姿の人がいて、その人が10代から合コンとかいっぱいして遊んでたら妬んでしまうと思うんですよ。その容姿でチヤホヤされる場所に自分から行けるんだっていう、その自意識がうらやましくて。すごい太ってるのに露出してたりとか。

──勘違いブスが(笑)。

北条 勘違いデブですね。

──口悪いですよ!

北条 太ってらっしゃる方が、雑誌なんかに載ってる人の3倍ぐらいの体形の方がエビちゃん(蛯原友里)と同じ格好してるみたいな、そういうのを見ると……これは摂食障害になってからですけど、自分はこんなに痩せようと毎日頑張って、1日500キロカロリーしか食べずに運動しているのに、たくさん食べて太っても罪悪感がない人たちが、うらやましいなと思うんですよ。

──1日500キロカロリー!?

北条 今じゃないんですけど、結婚から離婚直後まではそういう時期もあって。ダイエットはいろいろ試行錯誤してたんですけど、とにかく「こっちは頑張って痩せようとしてるのに、なんでああいう人たちは太ってても病まないんだろう」みたいな怨念です。痩せてすごく病んでいた時期は、39キロから41キロになっただけでも自我が崩壊するぐらい苦しいんです。「ああ、デブになっちゃった、もう人生終わりだ……」って絶望の淵にいる感じなんですけど、なんである種の人たちは60キロぐらいあるのに悩まないんだろうって思うんですよ。八つ当たりです。

──そういうことで悩まず普通に恋愛してたりしてるほうが絶対幸せなはずなんですよ。

北条 そうですよね。

──基本、自信の問題だと思うんですよね。自信があるとかわいく見えたりするし。

北条 それはあると思います。

──YAWARAちゃん(谷亮子)に初めて遭遇したときにも驚いたんですよ。

北条 美人オーラが出てるんですか?

──そうです。たぶん自分がかわいくないなんて微塵も疑ってないから、「ほら、私、かわいいでしょ?」ってオーラが出てるんですよ。自信が全部放出されてるから、カメラマンも「本物はすごいかわいかったですね!」とか言ってて。

北条 えぇーっ?

──本人は自分が世間でいろいろ言われてる自覚ゼロだから、そうなってたと思うんですよ。柔道以外でもすごい強さでした(笑)。

北条 それって彼女の実績があるからではなく?

──柔道の実績もあるし、実際にモテてきたっていう実績もあると思うんですよ。

北条 モテてきた?

──柔道の世界では、ちっちゃくてかわいらしいって感じだったからモテてたみたいだし、それで「私はかわいいんだ」っていう自信を持って。

北条 たしかにかわいいですよね、「YAWARAちゃん」っていうニックネームも、「愛ちゃん」とか「タマちゃん」みたいな。私もずっと自信がないことはなかったんですが。容姿にひどいコンプレックスがあるとしたら身体だけで、顔はお化粧すればなんとかなりますし。

■結婚生活の失敗で自尊心がなくなってしまった

──どうこう言ってもモテてはきてますもんね。本を読む限り、彼氏が切れてはいない感じだし。

北条 いないときも結構あるんですが、ひとりひとりが長いというか。カッとなってケンカ別れみたいなことがないので、長続きするんだと思います。本を読み返したら彼氏が10人ぐらいいたような人に見えますけど、実際は高1から結婚までに3人しかいないし、モテるっていう意識はなかったんですよ。自分は異性からチヤホヤされてないって思っていたので、YAWARAちゃんの自意識とは正反対というか。

──その結果、どっち側にも入れないタイプになったと思うんですよ。モテないグループの輪にも入れないし、モテてる側にも入れないという。

北条 入れないです。たとえば女性のエッセイストの方で雨宮まみさんは、自分の恋愛のコンプレックスとか恋愛で失敗なさった経験を、すごく濃くおもしろく描写するのがお上手ですよね。自分はそこがおもしろおかしく書けないんです。ありきたりな恋愛しかしていないから。不様なエピソードを優先して書こうとなると、恋愛の話は抜け落ちちゃって。自分にとってあんまり重要じゃなかったんだと思います。

──書くに値するような出来事があったのは結婚生活ぐらいなんですかね。

北条 そうですね、結婚生活に失敗したことで、それまで60ぐらいあった自尊心がマイナス5千万ぐらいまで落ちたんで。今も自分に自信はありません。一昨日ぐらいに実家の母から電話があって、向こうの弁護士がまたなんか言ってきてるって言われて。定期的にあるんですよ。ブログ系を全部見てるのか、2ちゃんねるとかも送ってくる。

──かなりいろいろチェックしてるわけですね。

北条 本の打ち合わせで「元夫が訴えてくるかもしれない」と言ったら、DVのことを削るよう言われたんですよね。それは仕方ないとして、本以外でも全く書かないとだんだん生きづらくなってくるし、フラッシュバック的なものもあって結構キツいんですよ。離婚の時に、元夫が一言でも謝罪してくれたら私は色々と受け入れられたと思うんですが、相手は「結婚生活のことは一切公言するな」とかいろんな条件を受け入れないと離婚してくれなかったので、暴力はなかったことになって。親族も「DVの証明は難しいから、すぐに離婚したいなら今は相手の言うことを聞いておけ」と。そうやって見て見ぬ振りをした親族もいたというのが、ものすごくきつかったです。

──誰も味方がいないぐらいの心境になりそうですね……。

北条 何度も助けは求めてたんですけど、結婚は忍耐だよみたいな。ここ半年ほど、そういう結婚生活のことをちょこっとずつブログに書くようにしたら、アメブロってホントに優しい空間で。読者の方が「北条さんのブログを見て、私もこういう経験があるのでこれを文章に書く」みたいなことを言ってくださると、癒されるっていったら変ですけど……。

<次回に続く>

プロフィール

著述家

北条かや

北条かや(ほうじょうかや):1986年、石川県出身。同志社大学社会学部卒業、京都大学大学院文学部研究科修士課程修了。自らのキャバクラ勤務経験をもとにした初著書『キャバ嬢の社会学』(星海社新書)で注目される。以後、執筆活動からTOKYO MX『モーニングCROSS』などのメディア出演まで、幅広く活躍。著書は『整形した女は幸せになっているのか』(星海社新書)、『本当は結婚したくないのだ症候群』(青春出版社)、『こじらせ女子の日常』(宝島社)。現在、美容整形に関するサイト『NICOLY:)[ニコリー]』(https://nicoly.jp)のアンバサダーも務めている。

プロフィール

プロインタビュアー

吉田豪

吉田豪(よしだごう):1970年、東京都出身。プロ書評家、プロインタビュアー、ライター。徹底した事前調査をもとにしたインタビューに定評があり、『男気万字固め』、『人間コク宝』シリーズなどインタビュー集を多数手がけ、コラム集『聞き出す力』『続 聞き出す力』も話題に。新刊『吉田豪の“最狂”全女伝説 女子プロレスラー・インタビュー集』が6月30日に発売。

(取材・文/吉田豪)

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